Concert Diary in May

■文中の敬称は省略しています
■各タイトルの日付は、掲載日を表しています


■ おかげさまで、このホームページは5周年を迎えました。これからもよろしくお願いします!

●01/05/03 「ライヴ系リスナーの日

 1996年5月3日、日本ではじめての「ライヴ系リスナー」のためのクラシック音楽情報のホームページが誕生して、早5年。いまでは街頭インタビューでも5月3日は憲法記念日ではなく、「ライヴ系リスナーの日」と答える人が増えているらしい(←ウソ)。

 5年前にこのホームページを作ったときにも、すでにクラシック系のホームページはそれなりの数があったが、私がホームページを設計する際に、参考にするべきホームページは正直言ってなかったと思う。もちろんデザイン的には参考にするべきページはあったけど、内容的には私が作ろうとしていたホームページとコンセプトが重複するページというのは皆無に等しかった。そのような中、おぼろげながら全体像を頭の中に描きつつ、GWを機会にホームページを作り始めたのが5年前というワケだけど、たぶん、ライヴ系というコンセプトでホームページを作るとすれば、誰が作るにしろ、骨格としては現在のこのホームページのようになってしまうのではないかと思っている。はたして海外のライヴ系リスナーのページというのは、どのようなサイトマップになっているのだろうか?私はあまり外国語のページには見に行かないので、もし代表的サイトがあるのだったら、ちょっと興味あり。

 このホームページを作るときには、先人がいなかったので、すべて自分で考えながら積み上げていったんだけど、あとから出来たホームページの中には参考になるものが含まれていることが多かった。デザインとかホームページに盛り込むアイデアとかは、後発ホームページのメリットではあるんだけど、決してそれだけではない。今、一番考えているのは、文章を書くときの姿勢なのだが、実はその点で、見習いたいなぁ・・・と思っているホームページがある。その人の文章を読んでいると、簡潔なんだけど、とても具体的な情景が目に浮かんでくる表現テクニックだけではなく、その人の人柄みたいな温かみが伝わってくる文章には、さすが!と思っていつも最後まで読んでしまうのだ。あえてホームページの具体名は秘すが、いつか私もあんな文章が書けるようになりたいと思っている。

 今月は5週年記念月間として新コンテンツを投入予定だが、世間はGWなので、私も5月6日くらいまではお休みをさせていただくことにしたい。では、今後とも、このホームページをよろしくお願いします!



●01/05/08 Libretto復活の日

 東芝のLibrettoといえば、ミニノートパソコンの分野を切り開いたとして、歴史に名を刻むコンピュータで、私もLibretto30、50、60(モバイルパック2)、70、1000、M3の歴代機種を使ってきた。1年半前にLibrettoff1000を発売したが、VAIOのマネばかりでぜんぜんLibrettoらしくないコンピュータになってしまって、市場からの支持を失ってしまい、Librettoの新規機種の発売は止まってしまった。誰もが名機の名の系譜は消えるのかと思ったけど、昨日、新機種の発表があったのだっ!! 名前はlibretto L1.明らかにSONYのVAIO C1を意識しているつくりだけど、ワタシ的に見るとそのコンセプトは全然違う。カメラとかの余計な機能は排して、キーボードや画面の大きさを最大限に確保したあたりは、私がVAIO C1に抱いている不満をよ〜く分かってくれているのだっ!実用性一辺倒の姿勢はどこまで市場に受け入れられるかわからんが、ワタシ的興味は大である。

 このGWの間、私はVAIO C1VJにWindows2000用のBIOSやドライバ、ユーティリティソフトが公開されたのを機に、ハードディスクのフォーマットからソフトのインストールまで行って、丸一日費やしてしまったんだけど、どうやらこのLibrettoもWindows2000用のドライバなどを公開する予定らしい。これで値段が14万円だったら、即買っちゃいそうな気分。あぶない、あぶない(^_^;)。

東芝Libretto L1 SONY VAIO C1VJ
CPU CrusoeTM5600 600MHz
メモリ 128MB(最大256MB) 128MB(最大192MB)
ディスプレイ 10型TFT 1280×600
8.9型 1024×480
グラフィック S3 Savage IX(8MB) ATI RAGE Mobility(8MB)
キーボード 84キー キーピッチ18mm
キーストローク2mm
86キー キーピッチ17mm
キーストローク2mm
HDD 10GB 12GB
ビデオカメラ なし 35万画素
モデム 56kbps(世界58地域対応) 56kbps
PCMCIA Type2×1
USB
バッテリ 3.5〜4.5h(標準バッテリ) 2.5〜5.5h(標準バッテリ)
大きさ 幅268mm×奥行167.2mm×
高さ20.5〜29.3mm
幅248mm×奥行152mm×
高さ27〜29mm
重さ 1.1kg 0.98kg
OS WindowsME



●01/05/09 チェルカスキーのサンフランシスコ・ライヴ

 GW中に秋葉原の石丸ソフト・ワンに行ったら、チェルカスキーの新譜が2枚入荷していたので、速攻でゲット。片方の「BBC LEGENDS」の方は過去の録音の焼き直しっぽい(←まだ正式には未確認です)ので、ここでは省略するけど、IVORYレーベルの「The 1982 San Francisco Recital」は紛れもなく新登場の録音だ(海外で発売されていたのは、以前から知っていたのだが)。

 さて、このCDには「HDCD」というマークがある。私もオーディオ系への興味が薄くなって久しく、詳しくは説明できないのだが、従来の16bit録音のCDとの互換性を維持しながら、20bit分の情報量を盛り込んだCDと考えて間違いないだろうと思う。従来のCDプレイヤーでも再生できるが、HDCD対応のプレイヤーであれば20bit再生で、より高音質で聴くことが出来るらしい。私の家のCDプレイヤーは往年の名機、SONYの557ESDは10年位前の最上位機種(定価18万円)で、もちろんHDCDには対応していない。もうひとつは最近買ったDVDプレイヤー。東芝の中位機種SD-5000(定価9万円)で、オーディオ的には特別の配慮がなされた機種とはいいがたい。重さはソニーの18kgに対して東芝は3.5kgと比べようもないのだが、東芝のDVDプレイヤーはHDCDに対応しているのだ。

 この2機種で聴き比べしたのだが、なんと東芝の方もかなり健闘しているのだ。音の重量感、とくにピアノの場合は左手のタッチはソニーの方のが良いのだが、これはプレイヤーの電源部の差だろうと思う。一方、東芝の方は20bit再生が生きているのか、音の減衰感が滑らかで、ホールの中に余韻の消えていく様が実にリアルなのだ。たぶん、オーケストラだと音の減衰感はあまり感じなくても平気なんだろうけど、ピアノはダイナミックレンジが極めて大きい楽器なので、16bitと20bitの差が大きく作用するんだろうと思う。

 オーディオ的な話はさておいて、このCDの出来であるが、これはかなり優秀である。最初のリュリは今ひとつタッチの滑らかさに欠けるけど、メンデルスゾーンのスケルッツォ・ア・カプリッツォになるとアグレッシブな姿勢が顕著になる。チャイコフスキーのグランド・ソナタは32分の大曲で、他の録音と比較は出来ないのでよくわからんのだが、この曲を東京でも聴きたかったと思わせるような演奏だし、ショパンやホフマンなどは東京でもお馴染みのレパートリー。録音はたぶんチェルカスキーの録音の中では最も優れているのではないか。従来の録音に収まりきれなかったチェルカスキーの魅力がHDCDのフォーマットを得て、その魅力を発揮できるようになったのかもしれない。このCDは、チェルカスキー・ファンは必携に一枚といえるんじゃないだろうか。



●01/05/10 ブロバイダ選びの基準

 このホームページへのアクセス数は、平日だと200前後、土日でも150前後のカウントがある。以前は土日のアクセス数は平日の6割前後だったのだが、最近は前よりも差がなくなってきた。これはインターネットに会社からアクセスする人より、自宅からアクセスする人の割合が増えてきているからだろうと思うけど、これからブロバイダと契約しようと思っている人には、ZD Netのホームページに「これが日本のベストブロバイダ2001春版」が掲載されていて、結構面白いので見るべし。ブロバイダの良し悪しは、ユーザー側のニーズによって変わるので、一概にブロバイダの良し悪しを決めることは出来ないが、実際に使っているユーザーのアンケートによる統計はかなり参考になると思う。

 ブロバイダに対するニーズは、一般的には接続する環境がメインになるんだろうけど、ホームページを開設している場合は視点がかなり違っていて、CGIやSSIが自由に使ええるかどうかがとても重要なポイントになる。名前の知れた大手のブロバイダの場合、SSIはもちろん、CGIの利用も制限している場合が多いので、私の場合は最初から選考の対象外になってしまう。その点では中小のブロバイダの方のが圧倒的に自由度が高い。このホームページを置いているAIRnetは、アンケート回答者の中で利用者が0.3%以下だったので、ランク入りはしていないけど、SSIは利用不可だが、CGIは自由に使えるし、サーバーは安定しているので、ワタシ的満足度はかなり高いほうである。

 一方、接続に関してだけいうと、これは大手の方が対応が早い。フレッツISDNやADSLに対する対応の早さ、PHSや携帯電話を使ったアクセスポイントなどでは、中小ブロバイダとは圧倒的な差がある。ほとんどのユーザは、ホームページを置くことを念頭に入れてブロバイダ選びをしていないので、接続環境への対応の早さがシェアを伸ばす武器になるんだろうなぁ。これから先、光ファイバー接続などになると、中小ブロバイダの多くは淘汰されてしまうのではないだろうか。

 さて、昨日、ヨドバシカメラにいったら新Librettoの予約受付が始まっていた。店頭価格は139,800円だが、10%ポイント還元があるから実質的には126,000円くらい。実物はないのにカタログの周りには多くの人が集まっていて、私が見ている前でも2人が予約を入れていたのだが、ワタシ的にはかろうじて踏みとどまった。やっぱりVAIOはあるし、ThinkPadもあるし、・・・。でも新リブ、ほしいなぁ。物欲の嵐。



●01/05/19 お仕事モード突入!

 なぁ〜んか急激に夜が多忙になってしまって、今月のコンサートの日程は大幅に見直しせざるを得なくなってきた。仕事の方が佳境に入っているので、気持ち的にもホームページの更新どころじゃない。にも関わらず、ホームページに訪れてくれる人が多いのでちょっと心苦しいのだが、月末から来月初めにかけては注目の公演が多いので、その頃には正常に戻したいと思っている。

 やっぱりスケジュール見直しの筆頭に上がるのは、先月、ペーター・マークが逝去して指揮者がジャン=フランソワ・パイヤールの代わった読響の演奏会。11日の名曲シリーズでモーツァルトを聴いた感じではかなりいい指揮者だなぁ・・・と思ったのだが、やっぱりペーター・マークを期待していた私の耳には「ちょっと違う・・・」と思ってしまった。その辺の違いをうまく説明できないのがもどかしいのだが、他の聴衆も演奏の良さのわりにはいたってクールな反応だったので、同じように感じていたのは私だけではないと思う。

 あと、昨日の高関健が振る都響定期のショスタコ8番もぜひぜひ聴きたかったのだが、これもやむなく断念。都響は今、好調だし、ショスタコの8番も名曲のわりには聴く機会が少ないので、残念である。まぁ、いいか。年に何回かはこーゆーこともあると思って諦めるしかない。



●01/05/22 鄭明勲&鄭京和=サンタチェチーリア国立アカデミー管(5/21)

 昨日はオーチャードホールで行われた表記のコンサートに行って来た。安いチケットが取れずに、なんとワタシ的にはきわめて高額といえる17,000円のB席! オペラならともかく、なんでこんなに高いオケのチケットを買ったのかというと、鄭京和のブラームスが聴けるということにつきる。なんてったって、前に若杉=都響の定期演奏会で弾いたブラームスのコンチェルトが素晴らしかったことは、忘れようと思っても忘れられるものではない。なお、指揮者やオケに関しては4年前の来日時に聴いたことがあるので、そっちの方にはあまり期待はしていなかった。

 会場に行ってみたら曲順が大幅に変わっていて、前半にベリオの「シンフォニア」、休憩をはさんで後半にブラームスのヴァイオリン協奏曲&「運命の力」序曲。曲順とは関係なく、まず注目の鄭京和から結論的に書くと、これは残念ながら期待はずれ。彼女のステージ姿は、相変わらず獲物に飛びかかる豹のような姿勢、そして集中力を感じさせるんだけど、それがヴァイオリンの音となって伝わってこない。そう、ヴァイオリンの鳴りが良くないのだ。ピッチも、オーケストラのそれより高すぎるような感じで、上擦ったような違和感を感じてしまった。これはホールが原因なのかもしれないが、若杉=都響との競演時のようにヴァイオリンの音そのものが強烈な説得力を持って迫ってきた記憶と比較すると、明らかに物足りなさを覚えた。第2楽章の細やかなフレージングの中に盛り込まれた豊かな感情表現は良かったし、彼女のこの曲に対するアプローチそのものは変わっていないと思うんだけど、鄭京和に期待すべき水準には及ばなかったというのがワタシの感想である。

 前半のベリオの「シンフォニア」は、「意外」と言っては失礼だが、なかなか良い演奏で、4年前に聴いたときと比較すると明らかにオーケストラの機能性に向上が見られる。明るい音色と豊かな色彩感は個性的で、ヴェルディの「運命の力」序曲はメインプログラムの中では、一番充実した演奏を聴かせてくれたんじゃないだろうか。ブラームスのコンチェルトもそうだったけど、鄭明勲は重厚な出だしで聞き手の心を引きつけ、その後、音学の表情を豊かに彩っていく。鄭明勲とオケの反応も、4年前とは雲泥の差である。アンコールは、「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲と、「ウィリアム・テル」序曲。(カヴァレリアは良かったぁ〜)

 ところで、この日の演奏会では熱心にひとりでブーイングしているオジサン(?)がいた。たぶん1階からだろうと思うんだけど(ワタシはもちろん3階)、そこからかなり大きな声で曲が終わるたびに「ブー!」。鄭明勲がアンコールを演奏しようとすると「アンコールしなくていい」と何度もアピール(日本語で)して、拍手でアンコールを「妨害」する。まぁ、コストパフォーマンスが悪い演奏会だったことは事実だと思うんだけど、そこまで執念深くしなくても、という感じ。


●01/05/31 オペラ・コンサート3本立て

その1 レヴァイン=METの「リゴレット」(01/05/28)

 28日は久しぶりのオペラで、レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場のヴェルディ「リゴレット」を見に行ってきた。会場は、3〜4階席は半分くらいが空席という感じで、全体的に見ても客の入りは9割程度か。普通のコンサートやオペラなら9割入れば大入りだが、METのチケットの値段だと損失額は1,000万円以上になるんじゃないだろうか。オペラブームのときなら簡単に売り切れたんだろうが、不況に加えて、スカラ座、新国、METと「リゴレット」が続いたんじゃ、そう簡単にはチケットは売れない。

 で、上演の方はどうだったかと言うと、ワタシ的にはまったく感動に至ることなく、終わってしまった感じ。これは上演の質が低かったという意味ではなく、個人的に「リゴレット」って面白いオペラだと思えないことに大きな原因があるんじゃないかと思っている。

 歌手のできばえは、マントヴァ侯爵にラモン・ヴァルガスは綺麗な立派な声だけどちょっと一本調子。リゴレットにフアン・ホンスは、豹寿豊かに歌ってくれたし、ジルダにスウェンソンも高音域で荒くなったりしたけど、ジルダにしては明るい声で表情が豊かだったのは新鮮に感じた。3人とも決して悪くなかったし、スパラフチーレにロバート・ロイドを配して、万全の体制だったんだろうけど、オーケストラは相変わらずの荒さを感じさせていてイマイチ。音は大きいんだけど、音楽作りとしては、ダイナミックレンジに頼る傾向がミエミエで、音色の変化に乏しいのが残念だった。

その2 サヴァリッシュ=フィラデルフィア管弦楽団(01/05/29)

 フィラ管を聴くのは、たぶんムーティ時代以来だろうと思うけど、今回はサヴァリッシュとのコンビでは最後の来日となるであろう来日コンサートである。サントリーホールはおおむね満員。やたらと外国人のリスナーが多かったんだけど、この日はMET公演がお休みだったんで、MET来日メンバーが聴きに来ていた人ような感じ。

 私はPブロックで聴いたんで音の正確な評価はできないけど、それでもオーケストラの巧さ、音の良さが伝わってくる。さすがにアメリカの5大交響楽団のひとつで、機能性だけを見たら世界でもトップクラスのオケである。サヴァリッシュのタクトへの反応の早さ、アタックの縦の線の正確無比さは、目を見張るほど素晴らしい。

 ワタシ的に一番良かったのは、2曲目のストラヴィンスキー「火の鳥」(1919)。こーゆー曲だと、オケの機能性の差が大きく出るけど、特に木管の音色の美しさは光った。メインのチャイコフスキーの4番は、悪くはなかったんだけど、この曲だとあまり大きな差は出ないような気もするんだけど・・・。アンコールは、チャイコ「白鳥の湖」第一幕のワルツ。これはバレエ公演だとあり得ないような演奏でしたね。ダイナミックレンジの幅を大きく生かして、この曲の優雅でふわっとした空気感まで表現した演奏。こんな演奏だったら、踊りはなくても満足できそう。

その3 アンドリュー・デイビス=METの「ばらの騎士」(01/05/30)

 はぁ〜、これは素晴らしい公演でしたね。ガラガラのNHKホールがもったいなく感じるほど。ホールとMET管という限界はあるんだけど、それを乗り越えて伝わってくる感動があった。

 ZZzzz・・・・・・・・・と、ここまで書いて、眠くて力尽きる(^_^;)。詳細は改めて。



●01/06/01 ばらの騎士

 いま、一番好きなオペラは?と聞かれれば、まよわず「ばらの騎士」と答える。第2幕の「けだかくも美しき花嫁に」〜ゾフィーとオクタヴィアンの2重唱、第3幕の三重唱〜二重唱は、この世のものとは思えないような美しい音楽だと思うし、登場人物の微妙な心の動きを的確に表現した音楽(ライトモチーフ)、・・・「ばらの騎士」は劇と音楽が見事に融合した一番良い実例なのではないかと思っている。こんなに素晴らしいオペラなのに、日本の歌劇団による上演はきわめてマレで、私はクライバー=ウィーン国立歌劇場、ゲッツ・フリードリッヒ演出のベルリン・ドイツ・オペラの公演しか見たことがない。たしかにハンパな歌手では上演できないオペラだと思うんだけど、こんなに素晴らしい演目が外来オペラでしか見ることができないというのは極めて残念である。

 さて、今回のMETの「ばらの騎士」は、正直言ってあまり期待はしていなかった。オーケストラが繊細感に欠けるMET管弦楽団だし、ホールは「あの」NHKホールである。これで、R・シュトラウスのを「室内楽的」な響き(編成は決して小さいとはいえないけれど)を表現できるのかどうか、はっきり言って疑問だった。しかし、終わってみればそれは杞憂だった。もちろん上を見ればきりがない。新国立劇場クラスのキャパの劇場で、ウィーン・フィルのレベルの演奏を聴ければそれに越したことはない。しかし、NHKホールでの上演ということを考えれば、むしろウィーン・フィルよりも、ふだん4,000人の劇場で上演しているMET管の方が良かったのではないか思うほど。それにアンドリュー・デイビスの堅実なタクトは、間違いなくレヴァインより上だろうと思う。MET管弦楽団は下手だと思っていたけど、実は指揮者が????だったのかもしれない(^_^;)。

 歌手もほんとうに素晴らしかった。比較をするとすれば、あの伝説的ともいえる94年、クライバー=ウィーン国立歌劇場の来日公演時のフェリシティ・ロット(元帥夫人)、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(オクタヴィアン)、バーバラ・ポニー(ゾフィー)、クルト・モル(オックス男爵)に匹敵するキャストであったことは間違いない。ルネ・フレミングの元帥夫人の舞台姿は華やかで美しく、歌唱面における表現力も実に豊かである。ロットと比較すると、フレミングは、凛として毅然とした気丈さが弱く、感情が表面に出過ぎる印象を持ったが、これはキャラクターの好みの問題だろう。ワタシ的には、もっと感情表現は抑えて、「眉の動きの中に、心理を表現する」みたいな微妙な心理表現してもらいたかった。(←無理か?)オクタヴィアンを歌ったスーザン・グラハムも、実に良い歌手ですね。歌はもちろんだが、演技力でもボーイッシュな魅力を存分に発揮し、舞台を牽引していた。ゾフィーを歌ったハンディ・グラント・マーフィーは、上記の2人に比べるとやや聞き劣りするかもしれないが、細くてよく通る声は三重唱になったときの声のコントラストがきちんと出てきて良かったと思う。この役が弱いと舞台全体の説得力が弱くなってしまう悪役?のオックス男爵だが、歌ったフランツ・ハヴラータが実に見事やセクハラ親父ぶりを見せてくれて、これも大満足のできばえである。

 演出はナサニエル・メレルで、METらしいオーソドックスなもの。特にこれといって見るべきもののない演出かもしれないが、登場人物の動きには神経が配られていて、満足できる内容だった。とにかく、ひたすら感動的な舞台に出会えてシアワセ。3階の最後列の補助席だったが、ここまできちんと歌手やオケの音が聞こえてくるのも、METならではだろう。

 しかし、この日のホールは空席が目立ち、3階席は半分程度の入りだったんじゃないだろうか。ここで問題が起こったのだが、開演前のベルが鳴って客席の照明が落ちたら、座席大移動が始まったのには非常に腹が立った。私は、空席に移ることは、マナー違反かもしれないが他の客に迷惑が及ばないのであれば目くじらを立てるつもりはないし、私も空席に移ったことはある。あまりエラソーな事をいえる立場ではないが、開演前の緊張感に包まれているときに、3階後部に座っていた人の3割くらいが一斉に席を立ち、なおかつ係員の制止を振りきって客席前部に移る様は実に異様で、まるで民族大移動。これから舞台を見ようという緊張感を著しく殺ぐものだった。さらに前奏曲が始まってからも、客席を移動している者すらいる始末である。せめて一幕が終わってから、とか、他の客に迷惑はかけないという最低限のマナーすら守れないのであろうか? このことだけは、ホントにがっかりした。