ケント・ナガノ=リヨン歌劇場管弦楽団

(文中の敬称は省略しています)


●97/09/28 アメリカやイギリスはもとより、ドイツのオケまで機能性を追求して独自色を失いつつあるのに、フランスやイタリアのオケは他では聴けない音楽を聴かせてくれることが多い。このリヨン歌劇場管弦楽団も、フランスの色彩感を色濃く残したオーケストラだ。どうせ海外のオケを聴くなら、このように個性的なオケを聴くべきだと再確認したコンサートになった。

 会場となったオペラシティ・コンサートホールは満員で、私の座席は3階のバルコニー席。ナッセン=N響の時に「視覚的には絶対にオススメしない」と書いた席だけど、チケット発売時にはこんな席だとはぜんぜん思わなかった。バルコニー席の中では、ステージから最も遠いあたりの座席なのだけれど、普通に座ると指揮者が見えるか見えないか、とても微妙。身を乗り出せばステージの三分の二くらいは見えるけれど、間違いなく後ろの人の邪魔になる。オマケに座席がステージに向かって真横に向いているので、ヒジョーに首が疲れるのだ。ちょっとこの座席配置はいただけない。こんな事なら、「立ち見席」にした方が良かったんじゃないかと思う。

 音響的には、この間座った1階席とかなり印象が違う。残響は1階よりも豊かで、楽器の響きが美しい。やっぱり座るんだったら2階席か3階席が良さそうだ。しかし、オケの音が重なると、見通しが悪くなり各楽器の分離しなくなる。音のヌケで不満を感じる点では、1階も3階も大差はなさそう。このオケは20日にオーチャードで「カルメン」を聴いたばかりだからそれなりの比較は出来ると思うのだけれど、クリアーな音響という点ではオーチャードの3階席の方が上かもしれない。まぁ、ホールの音が安定するまでには数年かかるのは常識だし、東京国際フォーラムみたいに救いがたい酷さではないので、これからの改善しだいでは屈指の音響になる可能性もあると思う。 

 さて、この日の曲目は

 実に色彩感豊かなプログラムで、このオケの特徴が際立つ演奏会に仕上がった。「クープランの墓」は、淡い水彩画の色彩感で描き出す。不満に感じたのは平板な音色と歌いわましのニュアンスに乏しい児玉麻里のピアノくらいで、喧噪な祭りを思わせるラヴェルのピアノ協奏曲の第1、第3楽章は見事。極彩色に彩られた「ペトルーシュカ」も、決して品位を失わない演奏だった。決して高機能を誇るオケではないし、ちょっとしたミスはあったけれど、それを上回る魅力があるオーケストラだ。明るく均質な管楽器の音色はニュアンスに富んで美しく、軽快な弦楽器はフランスのオーケストラの特徴そのものだと思う。ラヴェルやドビュッシーは、このようなオケのために曲を書いたんだろうなぁ・・・ろ再確認。ケント・ナガノの指揮はオケの自発性を重視し、自然な流れを失わない指揮者として、このオケの魅力を十分に引き出した。アンコールはベルリオーズ「ファウストの劫罰」から「ラコッツィ行進曲」、今回の来日公演の中で一番重量感がある演奏を聴かせてくれた。