オリヴァー・ナッセン=N響

(文中の敬称は省略しています)


●97/09/23 この9月に小澤=SKOの「マタイ受難曲」でオープニングを迎えた東京オペラシティ・コンサートホールの公演で、オリヴァー・ナッセン指揮NHK交響楽団の現代音楽プログラムである。このホールに入るのは初めてなので、まずその印象から。交通は都営新宿線から直接乗り入れが可能な京王新線「初台」駅を下車してすぐ、地下鉄の通路からそのままオペラシティの建物に入れるので、雨の日でも心配はいらない。新宿駅から甲州街道を歩いて行くこともできるけど、排気ガスが多い道を20分以上歩かなければならないため、あまりオススメは出来ない。初台駅からホールまでは3分、矢印があちらこちらにあるのでまず迷うことない。オペラシティの建物そのものは昨年に完成して、レストランなどもとっくに営業を開始しているのだけれど、このオペラシティの中核はオフィスと言うよりもコンサートホールであり、なによりもオペラハウスである。ようやく「仏つくって魂が入る」ことになる。

 ホールに入るときにまず目に入るのはレセプショニスト、いまやホールの顔みたいな感じだけど、その大部分が女性で制服はシックな黒。、ジャケットの襟のあたりに特徴があって、おしゃれで落ち着いた雰囲気。ホールは、1632席と少し小さめで、ふんだんに木が使われた明るい感じの大ホールである。このホールの特徴は何と言っても、「変形ピラミッド」と称する天井の形だろう。写真にあるように、天井に向かうにつれてだんだんと細くなっている。一部に三角形の天窓が用いられているけど、それ以外はすべて木で造られている(構造材はもちろん鉄骨や鉄筋コンクリートだろうと思うけど・・・)。「謎のピラミッド・パワー」を音響にも利用した・・・・というウワサが飛び交った。その音響効果は不明だけど、少なくとも美観的には東京で一番美しいコンサートホールだろう。

 椅子も広く、やや堅めのクッションで長時間座っても疲労感は少なそう。座席配置は、横に広く、奥行きは短い。そのため一番後ろの席に座っても距離感がないので見やすいけど、一般的に同じ座席数なら、横幅を狭くして奥行きを持たせた方が音は良くなる傾向にある。あと2階、3階にはバルコニー席があって、横向きの座席が並んでいる。この座席に座ってみると、視覚的に問題があるのがわかった。2階バルコニーだと、舞台の7割程度しか見えないし、3階バルコニーだと半分程度しか見ることが出来ない。身を乗り出せば若干は改善されるけど、後ろの人の迷惑になるのは明らかなので、視覚を重視する人には絶対にオススメできない。同じバルコニー席だったら、オーチャードホールのような形式が良いのではないか。反対に2階・3階の正面の席は、ステージ全体が見渡せるので、このホール内でベストの席。1階席は勾配が少ないので、オケの後ろの方の動きは全く解らないけど、それさえ我慢すればまぁまぁだろうと思う。あと気になったのは、ステージの大きさ。このホールのステージはかなり狭い。この日の編成はさほど大きいものではなかったけれど、ほぼ一杯だったし、多分「第九」など合唱が入る曲の上演する場合、合唱団の人数をかなり絞らないと演奏できないのではないか。

 今回のN響の演奏会は招待券(ラッP!)ということもあって、1階20列目右よりのS席相当。曲目はいわゆるゲンダイ音楽ばかりである。

 全部、初めて聴く曲だけど、あえて解説すると、今回の選曲は武満徹をキーマンとして、オマージュや追悼のために書かれた曲を集めた演奏会である。武満が強く影響を受けたドビュッシーで始まり、彼の追悼の為に書いたストラヴィンスキーの作品。武満自身の曲は、フェルドマンの追悼のために書かれた曲であり、フェルドマンの曲はそのピアノの先生の死を悼んで書いた曲である。最後の「詩編交響曲」は、聖書をテキストにした深い祈りの曲。こうして考えると、ナッセンのプログラミングは絶妙で、ある種の知的好奇心をくすぐるものだろう。ただ残念ながら、私自身の知性が追随できない部分が多く、途中で意識を失ってしまうことたびたび。さすがに前日のオール武満プロと連雀ではしんどい。

 で、こーゆー知らない曲ばかりだと、演奏の善し悪しも、ホールの音響もわかりにくい。音が悪い原因も、ホールが悪いのかオケが悪いのか・・・それともそーゆー曲なのか、いろいろな要素が絡み合うので、「いつも聴いているオケ」で「いつも聴いている曲」を聴かないと、ホールの音を判断するのは難しい。でもこの日の演奏を聴いた限りの感想では、意外と残響音は控えめ、低音は伸びるけれど、高音の華やかさには欠ける感じ。そのためか、全体に音が重たい・・・というかヌケが悪いというべきか。天井が高いので、ホールの容積は十分だとだと思うけど、現時点では音はあまり評価しにくい。28日にはケント・ナガノ=リヨン歌劇場管弦楽団を聴きに行くので、そのときに改めてホールの音を確認したいと思う。