2005年01月02日

新しいコンサートホール--2004年を振り返って--

 昨年、残念ながらコンサート・オペラにはそれほど多くは行けなかったのだが、 新しくできたコンサートホール、劇場のオープニングには2回立ち会った。 ひとつは7月にオープンしたMUZA川崎シンフォニーホールだ。 スパイラル構造で左右非対称のホールは国内に前例がないものだが、 ステージを客席が取り囲む感じはなんとなくベルリンのフィルハーモニーホールを髣髴させる(←写真でしか見たことないが・・・)。 JR川崎駅からも徒歩2分と近く、駅からの近さでは東京文化会館や新国立劇場に匹敵するし、 ホールまでは屋根があるデッキでつながっているので雨にぬれる心配も少ない。

 音響的には、残響が少な目なので、サントリーホールなどの柔らかい音に慣れたリスナーがどのように評価するのか、 微妙な感じはするけれど、現代のオケの機能性を考えたらこういう傾向のホールの方が好ましいかもしれない。ホールとは、 その中で演奏するオケによっても変わっていくべきものである。モダン楽器で演奏されることがほとんどの現代において、 古典楽器の時代のホールと同じような残響時間が必要だとも思えない。大阪のシンフォニーホールが出来た80年代後半は「残響2秒」 ということが必要以上にPRされてしまった感じだが、 これからは現在のオケの巧さを正確に伝えるホールというように設計の志向性が変わってきているのだろうと思う。

 もうひとつは8月にオープンしたまつもと市民芸術館。 松本駅から歩くには15分以上かかるのでちょっと遠いし、車を停めるところも近くにはないのでちょっと不便だが、 少なくとも松本文化会館よりは近くなった。小澤征爾指揮サイトウキネン・オケの「ヴォツェック」で杮落としを迎えたが、 このホールの心配点は、はたして稼働率がどうなのか?という点だ。はっきり言って、 松本ではサイトウキネン以外に魅力的なソフトがあるわけではない。東京からソフトを持ってくるにしても、 それで客席が埋まるとは思えないので、そもそものコンセプトからしてオカシイと思わざるを得ない。

 しかし劇場が完成してしまった現在、そんなことを言ってもしかたがない。それにしても思うのは、川崎にしろ松本にしろ、 音響のレベルが極めて高いというところである。以前は、ホールの音響は開館して数年待たないと評価が出来ないといわれてきたが、 この両ホールはオープン直後から評価してもかまわないほど優れたホールである。これはひとえに、 ホールの音響設計技術の向上にあるのだろうと思う。バブル期の後半には日本国内にさまざまなコンサートホール、劇場が生まれた。 多目的ホールも加えれば3ケタの数のホールがうまれたに違いない。さすがにそれだけのサンプルがあれば、ホールの設計技術は向上する。 90年代前半に完成したホールの音響には???がつくものも少なくなかったが、新国立劇場以降に完成したホールには、 私が知る限りハズレがない。

 もう一点。川崎も松本も、客席からステージが見やすい。S席から見やすいのは当たり前だろうけど、 最も安いランクの席からでもステージが見やすい点は、両方のホールとも特筆に価する。たとえば、 新国立劇場の4階席やすみだトリフォニーホールの3階席後部に座ったことがある人ならわかると思うが、この座席は前の人の頭が邪魔になって、 ステージのど真ん中の視界が遮られることが多く、とてもストレスがたまる。しかし、川崎や松本のホールは、若干の制限はあるものの、 安い席でも安いなりにステージを見て楽しめるのはうれしい。二千席の大ホールで、音響的にも視覚的にも満足できるホールというのは、 意外と少ない。その意味では、川崎も松本もとても優れたホールである。まだ、どちらのホールも行った事のない人は、 ぜひ新しいホールのよさを体験してみてはいかが?

※写真は、まつもと市民芸術館のオーケストラピット

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