すみだトリフォニーホール(錦糸町)


 オペラシティ・コンサートホール、新国立劇場と、大きな音楽ホール(劇場)のオープンが重なった1997年。その年の最後にオープニングを迎えたのがこの「すみだトリフォニーホール」である。言うまでもなくこのホールは墨田区立(運営は墨田区文化振興財団)だけど、さほど財政規模が大きくない自治体である墨田区だけで、よくこれだけのホールが造れたなぁ・・・などと感心すると同時に、余計な心配をしてしまう。客席数は1801と、やや小さめだけど、このホールは日本のクラシック史上、画期的なホールと言っても間違いない。

 その画期的な理由は、「ホールとオケとの関係」においてである。すみだトリフォニーホールは新日本フィルをフランチャイズ・オーケストラに迎えて、定期演奏会はもちろん練習もこのホールを使用するという。新日フィルがこのホールを使用する日数は、年間180日と伝えられている。つまり一年の半分は新日フィルが使用するわけだ。京都コンサートホールや札幌キタラ・ホールなどが地元のオケに優先使用させているけれど、普段の練習会場は別でホールを練習に使えるのは演奏会前日だけだったりする。新日フィルとトリフォニーほど密接な関係は、国内の大ホールでは前例がない。(室内楽ホールでは、紀尾井シンフォニエッタと紀尾井ホール、水戸室内管弦楽団と水戸芸術館という例があるけれど、特に後者は演奏会頻度から常設のオケとは言いにくい部分がある)

 演奏会場と会場が同じというのは海外では珍しいことではないし、欧米のレヴェルが高いとされるオケでは常識と言って良い。これまでは新日フィルは大井町で練習を行っていたけれど、そこでせっかく培った音のバランスでも、演奏会場(東京文化会館やオーチャード)では響きが違うため短時間でもう一度組み立て直さなければならない。しかしトリフォニーでは練習で培った響きを、そのまま本番で使うことが出来る。このメリットは非常に大きい。

 すみだトリフォニーホールは、錦糸町の旧国鉄用地をに建てられたため駅の北口から5分くらいの場所にある。錦糸町という場所は、その方面以外の人にはあまり馴染みがないだろうけど、千葉方面からはもちろん、神奈川県からも総武線快速−横須賀線が直通で停車するため、意外と近い。駅から近いと言うこともあって、交通は至便と言って良いだろう。駅を出ると再開発されたらしいきれいな駅前風景が広がっているけど、道路を一本隔てると雑多とした町並みが広がっている。周辺にはリーズナブルなレストランやファースト・フード系の店が多いので、急いでホールに駆け込む人にとって便利。ちょっと落ち着いた店をご所望なら、「そごう」や東武ホテルのなかにもレストランがある。

 その「そごう」と「東武ホテル」を過ぎると「すみだトリフォニーホール」に到着する。残念ながらホールとして確保した敷地はあまり広くないみたいで、ロビーは狭い。階段や通路もちょっと入り組んだ感じなのでちょっと迷いやすい。改善は難しいと思うけど、このホールの利用者としては最も気になるところである。ホールは座席数1801で、最近のホールとしてはやや小さめ。正面にはドイツのJehmlichが製作した66ストップのオルガンが備え付けられた。ホールの形状は、横幅を抑えて奥行きを深くしたシューボックス形のホールで、客席は3層構造。1階席後部と2階席の全部は、上階が屋根のようにかぶさってしまう、いわゆる「雨宿り席」である。この辺の席は音が悪くなりがちだが、トリフォニーホールの場合は意外と音が悪くない。この形状のホールだと、経験上、一番音がよいのは3階席である。たぶんこのホールの中では一番コストパフォーマンスが高いはず。座席の広さは東京のホールとしては平均的な水準だけど、椅子の高級感はイマイチで少し柔らかめのクッション。横の座席の振動が伝わりやすいのがちょっと気になる。

 3階席後部の音は、長所短所を併せ持つけどなかなかの高水準。長所は、残響はやや控えめで、密度感のあるリアルな音を聞かせてくれること。特に木管や金管の音が非常に生々しく聞こえ、声楽や合唱団の声も素晴らしいと思う。この点に関しては東京のホールでもトップクラスであることは間違いない。短所としては、音が硬くて、楽器によるバランスが今ひとつで、管楽器とダブると弦楽器がぜんぜん聞こえないことがあった。この点はオケの鳴らし方次第なのかもしれないが、柔らかい音が好みの人にはあまりオススメできないホールである。
  

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