Concert Diary in November

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映像の時代 〜遅ればせながらDVD〜

 この間、近所の量販店にあるDVD売り場をのぞいてみたら、これまで値段が高いと思っていたクラシック系DVDが一枚2,800円で売っていた。後で調べてみたら、かなり前に期間限定で再発売されたものの売れ残りだったらしいんだけど、根っからのライヴ系リスナーである私が気がつかなかっただけらしい。それにしてもオペラやバレエのDVDが2,800円というのはCDよりも安いではないか!思わず何枚か買ってしまったんだけど、この10〜11月にかけて、再びバーゲンプライスのDVDが再発売されている。これまで映画は新作でもかなり安い値段でDVDが発売されてきたけど、クラシック音楽もいよいよ廉価盤DVDの時代を迎えているのかもしれない。

 オペラやバレエは、やっぱり舞台芸術である。視覚的要素を抜きに音だけを楽しめといっても、よほど忍耐強い音楽ファンでないとCDでオペラやバレエを楽しむことは難しい。特にオペラを対訳と付き合わせて聴くなどということは、私には絶望的に不可能な作業なのだ。その点、やっぱDVDは良い。歌手や演出の良し悪しは別にして、普段はなかなか実演に接することが出来ない演目であっても視覚的に楽しませてくれるのである。日本語字幕も着いているので、まだ見ぬ演目の予習には最適だ。もっとも珍しい演目のDVD化が進んでいるとはいえないのが残念だが、これは近い将来、きっと解決するだろう。

 そして、とりあえず私が気に入ったのはワーナーが発売しているパリ・オペラ座の「ロミオとジュリエット」である。ヌレエフの振付・演出をみるのは初めてで、DVDならではのありがたさだ。そして、その上演水準の高さに、ストーリーに、音楽に、・・・もう感動のひとこと。多分、このHPの読者のほとんどはバレエには興味はないと思うのだけど、バレエ音楽の最高傑作をであるプロコフィエフの音楽を聴くためだけでも買って損はない。少なくともCDなら3枚組みなので2,800円で買うのは難しいし、なによりも円盤を取り替えるのがめんどくさいではないか。そんなワケで、この三連休は、DVDに浸る毎日を過ごすことにした。たまにはライヴでない日々を過ごすのも悪くない(^_^;)。(03/11/03)



名曲シリーズ? 〜来年度の東フィル定期〜

 私はいくつかのオケの定期会員になっているけど、土曜日に東京フィルから来年度の定期演奏会の案内がやってきた。まぁ、もうこんな時期なんだなぁ、と思うけど、これから都響、読響からも案内が届くはず。

 さて、その東フィルのプログラムを見て思ったんだけど(東フィルのホームページ未掲載)、これはもう完全に名曲プログラムですね〜。いくつかの小品にはわずかに選曲的意欲も感じるんだけど、メインプログラムはチャイコフスキーやブラームス、マーラーの交響曲。果てはベートーヴェンの第九や「新世界」までが定期のプログラムを飾っているのである。そして注目のチョン・ミョンフンが振るのは、各定期(オーチャード、オペラシティ、サントリー)とも8回中3回づつで、プログラムは別々なんだけど、マーラーは「巨人」、3番、4番を振り、ブラームス2番、ベートーヴェン第九というプログラムを振る。

 あと特徴的なのは、オーチャード定期がすべて日曜日の午後3時に開演するスケジュールに変わったことかな。これは人にもよるんだろうけど、個人的には日曜日に渋谷なんか出かけたくない(^_^;)んだけど、世間一般の間では日曜日固定の方が良いんだろうか? そんなワケで新年度への更新意欲がやや減退しているのだが、結果的には会員を更新してしまうんだろうな、やっぱ。(03/11/04)



「戦争と平和」 〜ゲルギエフ&キーロフ歌劇場〜

 ちと久しぶりの更新になってしまったんだが、実際のところこの間、ぜんぜんコンサートには行っていないんだな。チケットは5〜6枚無駄に・・・(泣)。べつに超絶的多忙という状態ではないんだが、なんとなくめぐり合わせが悪くてコンサートが犠牲になってしまった感じ。たぶん年内はこんな感じになるんじゃないかなぁ・・・と思う。

 で、昨日は久しぶりにオペラ。NHKホールで行われたキーロフ歌劇場のプロコフィエフ作曲「戦争と平和」のマチネである。ご承知の方も多いと思うけど、昨日の土曜日はマチネ(昼公演)とソワレ(夜公演)のダブルヘッダー。さらに日曜日はマチネと、2日で3公演という強行軍が話題にもなった。外貨獲得に熱心なキーロフ歌劇場の希望なのか、ワーカホリック(仕事中毒)のゲルギエフの意向なのか、それとも主催のジャパンアーツの都合なのかはわからないけど、海外のメジャーな歌劇場の公演としては異例のスケジュールだ。

 それはともかく、この「戦争と平和」なのだが、私はトルストイの原作を読んだこともなく、もちろんこのオペラを観るのも聴くのも初めてである。原作はロシア文学らしい超長編で、オペラもカットなしに上演すればめちゃめちゃ長いらしいけど、今回はMETとの共同制作によるカットあり上演。そのため午後1時過ぎに始まった上演は、25分の休憩をはさんで午後5時前で終わったのだが、それでも正味3時間超の長いオペラである。

 そんなふうに時間的には長いオペラではあるけど、実際にオペラを見た感想としては意外と「あっ」と言う間だったのである。もちろん冗長なところもあるんだが(特に第一幕を中心に・・・)、これだけ凄いスペクタクルを見せられたらさすがに飽きるヒマはないだろうと思う。  音楽的には、第一幕は「オネーギン」的な叙情性すら湛えた感じで、坦々と進んでいく。そしてストーリー的には場面ごとの繋がりがないために、事前にあらすじくらいは読んでおかないと全く理解できないあたりは「ボリス・ゴドノフ」的でもある(^_^;)。そして第2幕は、ナポレオン軍 vs ロシア軍との戦闘シーンだ。

 あのNHKホールの巨大なステージの中心に据えられた大きな回転台と、そこを所狭しと動きまわる大群衆の合唱団、ナポレオン率いるフランス軍とロシア軍との戦闘シーン・・。私はNHKホールでオペラを見るのは好きではないが、この舞台装置を見せられたら、やっぱり他の会場で上演するのは難しいと、納得せざるを得ない。まぁ、舞台装置そのものは、スピーディな舞台展開を行うためにバトンからの吊り物が中心の簡素な感じがぬぐえないのだが、それでも人の動きを中心に見所はとても多い舞台である。

 この公演の看板ソプラノだったネトプレコは急病のためにキャンセルになったけど、代役のマターエワも小柄でかわいらしく、この役柄にぴったりな感じ。アンドレイを歌ったホロストフスキーはNHKホールで歌うにはちょっとい声が弱い感じ。ピエールを歌ったゲガム・グリゴリアンは、この日で一番の拍手を集めていたし、合唱団のパワーもさすが。初めて聴く曲なので、管弦楽の良し悪しはわからないのだが、少なくともワタシ的には全く不満を感じさせない出来だった(ただしNHKホールに起因する不満は大いにあるんだけど)。

 そんなワケで、予想以上に満足度の高い公演になって良かったんだが、舞台装置関係で騒音が多かったり、第2幕のアンドレイの臨終のシーンで、PAからかなぁ?ホワイトノイズっぽい音がずーっと聞こえてきたりと、かなり気になりました。やっぱリハーサルする時間が足りなかったんじゃないかなぁ?(03/11/16)



「ボリス・ゴドゥノフ」 〜ゲルギエフ&キーロフ歌劇場〜

 やっぱロシア・オペラの代表作といえばコレでしょう!ムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」。この演目をナマで見るのは3回目だと思うけど、今日のキーロフはその中でも最上級の出来栄えだったと思う。何が良かったかというと、やっぱホールじゃないかな。前の2回、すなわちボリショイ・オペラとウィーン国立歌劇場は、NHKホールでの公演だったが、今日は東京文化会館。音は比較にならないくらいイイ。それに一昨日の「戦争と平和」の時と、同じオケとは思えないほど分厚い音で鳴り響くのである。いくら「戦争と平和」が大規模な舞台装置でスペクタクル的な演出を施したとしても、やっぱり音楽的感動とは違うのである。その点、今日の東京文化会館で奏でられた音楽はスバラシイ!いかにもロシア的な重心が低いピラミッド型の音楽作り。渋くくすんだ音色の弦楽器ぶあつく鳴り響くと、やっぱコレだよ、コレ!と膝を打ちたくなる。今日の第一の功労者は、なんといってもゲルギエフ=キーロフ歌劇場管弦楽団だ。

 そして演出もイイ。今日の上演は、一幕仕立てにしたカット上演で、2時間20分の休憩なし。ワタシ的にはカットしすぎの不満は残るんだけど、演出としてはかなり良かった。本来は場面がころころと変わるオペラなので、場面に忠実なオーソドックスな演出だと、かなり大規模な舞台装置の移動が必要になる。しかし東京文化会館で、しかも一幕仕立てであれば大規模な舞台装置の移動なんて出来ない。したがって演出は抽象化の上で、吊り物や簡素な小道具を駆使することになるんだけど、今日の演出は照明の使い方が巧く、スピード感ある舞台展開でむしろ簡素さをメリットにしていた感じ。その照明の色合いやが、群集やボリスの心理描写と密接に結びついていて、抽象化されていた演出の割には結構わかりやすい舞台だったんじゃないかな。

 そして忘れちゃいけない、「ボリス」といえば合唱でしょ。これもサスガです。あの分厚い合唱には参りました。あと歌手もみんなパワフル。圧倒的存在感のある歌手はいないんだけど、みんなバランスが取れていて、キーロフの歌手層の厚さを感じました。そんなワケで、今日の「ボリス」は、「戦争と平和」以上に満足できた公演になりました。そして次回の日本公演は2006年、なんと「リング」のチクルス上演を行うことがプログラムに掲載されている。(03/11/17)



「ロミオとジュリエット」 〜ベルティーニ&東京都交響楽団〜

 11月20日の金曜日、サントリーホールで行われた都響の定期演奏会は、音楽監督ベルティーニによるベルリオーズの大作「ロミオとジュリエット」である。ベルティーニの登場なので会場は満員かと思いきや、意外と空席が目立つ。Pブロックには客を入れていなかったにも関わらず、他のブロックも7〜8割程度の入り。曲目のせいかなぁ?

 私はこの曲をナマで聴くのは、フルネに名誉指揮者の称号を授与したときの都響定期演奏会だが、そのときからかなり長い年月が経過している。プログラムによるとそれが1989年らしいから、かれこれ14年も前のことだ。そのときは、やけにあっさりした演奏だったなぁ・・・という程度の記憶しか残っていない。フルネ独特の丁寧に紡いだ音楽であったことは確かなんだが、ドラマ性に乏しい音楽だったのだ。しかし、この日のベルティーニの演奏はフルネとは対照的、これは「ドラマ」である。

 もっともこの曲の構成は、オペラを目指したものではなく、あくまでも交響曲である。ロミオやジュリエットに相当する歌手が登場するわけではない。その意味でオペラ的な高揚感があるわけではないのだが、「幻想交響曲」でも指揮者によって純音楽的なアプローチになることもあれば、標題的にドラマチックに演奏する指揮者もいる。ベルティーニ&都響が演奏する「ロミオとジュリエット」は、その意味でドラマ性に富んだ演奏だったのだ。

 私が感銘を受けたのは、まずコントラルトが歌う第一部の「詩節」。ハープとチェロで伴奏される唄だが、小川明子の叙情性溢れる豊かな歌声にはシビレました。いや、正直言ってあまり馴染みのない歌手なので、期待もしていなかったんだけど、いい意味でそれは裏切られました。まだまだ若そうな歌手なので、これからの活躍に大いに期待。

 そして管弦楽的な見せ場は第二部で登場し、ベルティーニの得意とするドラマ性のある音楽である。もっともドラマチックと言っても、ごくごく滑らかに高揚感に導かれるので、少しのあざとさも不自然さもないのはさすが。広いダイナミックレンジを駆使して、生命感の溢れる音楽作りをみせた。第三部では、晋友会合唱団も登場。この日のベルティーニのアプローチに沿ったドラマ性のある歌唱で、悲劇を演出する。オケはもちろんだが、歌手(小川明子、望月哲也、河野克典)、合唱も大健闘。正直言って、この日の演奏を聴くまで、ベルリオーズのこの曲が、こんなに良い曲だと思わなかった。

 ただ風邪が流行っているのか、咳が多めで、客の集中力も全体的に低めな感じ。さらに私の近くに座っているヤツが、腕時計のねじを巻くような変な音を出しているし、靴で床をキュッキュッと鳴らして落ち着かない。おかげで私の集中力まで低下してしまって、せっかくの名演奏が感動にまで結びつかなかったのが残念。あと晋友会合唱団、やっぱり巧いんだけど、第三部の大編成の合唱と比較すると、第一部の小編成の合唱はレベル的に差があって、声がちょっと揃っていない感じ。もちろん、アマチュア合唱団として考えればハイレベルなんだろうけど、ここまで巧いんだったらさらに高望みしたくなる。(03/11/22)



私にとって定期会員とは? 〜徒然なるままに〜

 この前、東フィルの来年度定期の事を書いたけど、その後、間もなくして都響の新年度定期の案内も来た。オペラ関係では、新国立劇場のホームページにも来年9月以降の予定も掲載された。私が定期会員になっているオケで、まだ発表がないのは読響だけかな。まぁ、これも近々発表があるでしょ。都響にしても新国立劇場にしても、財政的キビシサがラインナップに反映しているような気がするけど、いずれにしても苦境を乗り越えて頑張って欲しいと思います。

 私は現在、都響のBシリーズ(サントリー)と芸術劇場シリーズの両方、新日本フィルのトリフォニーとサントリーの両方、東京フィルのサントリーとオーチャードの両方、読響定期、紀尾井シンフォニエッタ東京の定期、N響のオーチャード定期の会員だから、・・・・えーと、全部で9つのシリーズの会員になっているワケだが(^_^;)、もちろんこれ全部に行く事なんて不可能。行けないのは職場で引き取ってくれる人がいるし、直前に予定が入ってしまった場合なんかは無駄になってしまっても仕方がないと思って定期会員になっている。

 あと、私は超ナマケ者なので、当日券でコンサートに行こうとは全く思わない人なのだ。シリーズで前売り券を買っているからコンサートに行こうと思うものの、当日だったら仕事で疲れてメンドクサイから帰ろうと思ってしまうタイプなのである。だから自分にムチを打つためにも、定期会員になっているという面もある。こんな事を書くと、おまえ、ホントにコンサートが好きなのか、と疑われるかもしれないけど、コンサートのチラシや定期会員のラインナップを見るのは大好きなんだな、これが。もちろん、いい演奏を聴いた感動は、他の何物にも代え難いということは十分に知っているつもり。コンサート通いがいささか惰性化しているのは否めないが、コンサートはすでに私の生活の一部になってしまっている。

 で、来年度なんだが、えーと・・・・たぶん・・・・もしかしたら、新しいオケの会員になる可能性があります。これ以上、コンサートの予定を増やしてどうするんじゃ!と、自分でも思うんだけど、やっぱり、うん、ここだけはねという感じなのだ。たぶん、読んでいる人には意味不明だと思いますが、とりあえずそれで良いです(^_^;)。今月の予定は、26日にゲルギエフ=読響定期、あと28日には新国立劇場「ホフマン物語」の初日です。ホフマンでジュリエッタを歌う佐藤しのぶは、来年度の新国立劇場でも「ルル」を歌うことになっているけど、ホントに大丈夫なのかな?(03/11/24)



ゲルギエフ&読響 ベルリオーズ「レクイエム」

 キーロフ歌劇場の来日公演に続いて、ゲルギエフは11月26日の読響定期に客演、そしてベルリオーズの「レクイエム」という超大曲のためにキーロフ歌劇場合唱団も日本に残ってこの定期に登場した。会場は、合唱団のために客を入れなかったPブロックをのぞいて概ね満員の盛況。

 あらかじめ申し上げておくけど、このベルリオーズのレクイエム、はっきり言って音楽的に感動を呼び起こすような曲ではない、と私は思っている。歌詞テキストは「レクイエム」なんだろうけど、ベルリオーズの作曲した音楽の中から、私はほとんど信仰や祈りのようなものを聞き取ることが出来ない。したがって、あくまでもオーディオ的に楽しむ曲だというのが感想だ。そんな曲ではあるけれども、私はやっぱりこの曲を聴くのが楽しみだ。過去に2回しかナマでは聴いたことがないけど、家でステレオやヘッドフォンで聴いてこの曲の真価がわかるとは思えない。今回の定期演奏会では、金管のバンダはPブロック後方の左右と、RA・LAブロック後方に配置された。合唱は、Pブロックに約90人にキーロフ歌劇場合唱団、ベルリオーズの「レクイエム」を日本人のアマチュア合唱団が歌うとすれば、この人数では絶対に収まらないだろう。

 さて、演奏の方はどうだったのだろうと言うと、「ゲルギエフ」という名前のイメージから受ける先入観から見ると、意外と普通のアプローチだった。ダイナミックレンジが広さを最大限に生かしつつも、とても丁寧な演奏を聞かせてくれて、ゲルっぽい「えぐさ」や「うねり」はほとんど感じさせない。その意味では正攻法の演奏だったのだが、アンサンブルの面では上出来。バンダとの音色の統一感などでは若干の不揃いを感じたものの、破綻やミスはほとんどなく、短期間で読響をここまでもってきたのはさすが。

 そして、この演奏会の主役は、なんと言ってもキーロフ歌劇場合唱団だ。100人にも満たない規模にもかかわらず、そのパワーには驚かされる。さらにピアニッシモの繊細さも舌を巻く巧さで、非常に広いダイナミックレンジを過不足なく聞かせてくれた。ロシアの合唱団がベルリオーズを歌うことについての言語的な意味での問題点はわからないものの、少なくとも日本の合唱団にありがちなカタカナ的な発音は皆無。

 たぶん、今年度の読響定期の中では最も注目度の高い演奏会だったのだろうけど、少なくともその注目度に違わないレベルの演奏水準だったことは間違いないと思うが、個人的な感銘度では7月の読響定期の方が上。これは単純に曲目の差なのかもしれないけど。(03/11/30)




新国立劇場「ホフマン物語」

 ホフマン物語が日本国内で上演されることはかなり少ない演目だ。少なくとも私はベルリン・コミーシェオーパーが98年6月に来日したときのクップファー演出しか見たことがない。未完の曲だけに各種の版があり、そのテーマの抽象性から演出の余地が多い演目ではあるけれど、今回は複数の版を組み合わせた独自版、演出はフィリップ・アルローが務めた。その初日公演は11月28日の金曜日。会場は、私の見た範囲では概ね満員に近い盛況だった。

 今回の演出は、プログラムによると「中心軸となるのは死の概念です」と書かれている通り、常に死の影が舞台に付きまとう。実際の舞台を具体的に文章化できない自分の文章力がもどかしいのだが、ホフマン物語に抱きがちな退廃性とか芸術とシャンパンの香りは後景化してしまって、葬送のイメージがどこかに付きまとっている感じなのだ。実際、主人公たるホフマンは、このアルロー演出の最後で泥酔のあまり死に至ることになっている。もちろん、このオペラはシリアスではないし、この新国立劇場の舞台も笑いをとるべきところの演出に欠く事はないのだが、好みの分かれる演出であったことは確かだろう。演出家がカーテンコールで登場したときには、ブーイングとブラボーが交錯したけれど、ワタシ的には結構面白かったし、こういう演出もありだと思う。ただ、この演出によって失われていたものも多かったのも、たぶん事実だろう。

 歌手では、うーん(^_^;)、ホフマンを歌ったヤネス・ロトリッツがイマイチだった。出ずっぱりの難役であることはわかるんだけど、声が一本調子で表情がない。演技も巧いとはいえないし、詩人らしいロマン性や感情がぜんぜん伝わってこないのである。対して女性陣は良かった。オランピアの幸田浩子は大健闘で満場の喝采を集めていたし、アントニアのアンネッテ・ダッシュも彫りの深い声と表情で、ワタシ的に好み系。ジュリエッタの佐藤しのぶも、まぁまぁの出来栄え(←カーテンコールでブーが飛んでいたけど、そこまでヒドくはない)。さらにニコラウス/ミューズを歌ったエリナ・ガランチャも素晴らしい。その他、四役を歌ったゴードン・ホーキンス、高橋淳も好演。

 全体的に見れば、それなりに面白い舞台だったと思う。版哲朗&東京フィルの管弦楽は、堅実だったものの、音は重すぎ。もっと色彩感とニュアンスに富んだ演奏を期待したかったが、きっと2日目以降は良くなるのではないか。(03/11/30)