Concert Diary in January

■文中の敬称は省略しています
■各タイトルの日付は、掲載日を表しています



2002年の初めに
Takashi Asahina(1908-2001)
生前に聴かせて頂いた数多くの名演奏に対し、心から感謝します。

 新年に際してご覧のとおり、このホームページのデザインを全面的に変えました。たぶん2年ぶりくらいの大改革。従来どおり「なるべく軽く、見やすく」を心がけたのですが、いかがでしょうか? ちょっとは洗練?された感じになったと思うんだけど・・・。そして、今回は、なんと!ホームページの名前を変えました。これまでの「Tokyo Classical Concerts」は苦し紛れに最初につけた名前で、機会が来たら変えようと思っていたのですが、なかなか踏み切る機会がなくてここまで来てしまいました。従来の名前が長すぎたので、新しい名前はシンプルにTokyo Classic。まだ他のページの表記変更は間に合っていないところが多いのですが、これからぼちぼちということで(^_^;)。今年もよろしくお願いいたします。

 さて、昨年は世界史的に見ても大事件になるであろうニューヨークのテロ事件をきっかけとして米英を中心にしたアフガニスタン侵略と、深刻な恐慌的な経済状況への突入があり、日本でも失業率が戦後最悪を毎月のように更新し、ついには5.5%にも達するなど、21世紀は最初からヒジョーに厳しい状況になっています。クラシック音楽界を取り巻く状況も、日本経済の悪化の影響を真っ向から受けて、東フィルと新星日響の合併、都響予算の大幅削減、新国立劇場のような公益法人も改革(改悪?)の遡上にある。外来オケやオペラは不況にも関わらずたくさんやってくるけど、チケットの売れ行きは明らかに低下している。グルちゃんのようなスーパースターがいれば5万円以上のチケットでも完売するけど、それ以外は会場に行っても空席が多いのが実態じゃないだろうか。

 クラシックの演奏会は、入場料収入だけで採算を取ることが困難で、それゆえ企業メセナや自治体等の補助の頼らざるを得ない。しかし、そのメセナや補助は、景気の影響を真っ先に受ける分野だ。現在の深刻な不況が続く限りにおいて、今後のクラシック音楽界に明るい展望を見ることは難しくなってきている。そんな中で、都響のサポーター制度「都響倶楽部」や、第一生命ホールのNPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)のような取り組みも始まっている。いずれもリスナー参加型で、オケなりホールの企画を支えていこうという取り組みである。いずれにしても従来のバブリーな路線と比較すれば縮小は避けられないし、成果はまだ現れているは言いがたいが、注目すべき動きだろうと思う。

 このホームページも6年目から7年目に入る今年、このページを見て少しでもクラシックに興味をもち、コンサート会場に足を運んで、クラシック音楽を支えてくれる人がひとりでも増えてくれれば望外の喜びです。(2002/01/01)


リンクを全面的に変更

 ホームページを作成する上で、手間がかかる割に実りが少ないものは何かというと、実はリンクではないかと思っている(^_^;)。そもそもリンクはこのページからの「出口」であって、その性格上、いくら掲載するホームページを増やしたとしても、通過する人は増えるかもしれないが、基本的には「滞在者」は増えないのである。オマケに、他のコンテンツと違って、リンクは作ったらそれっきりという訳にはいかない。本来なら定期的にリンク先を巡回して、リンク切れや潰れてしまったページの削除をしなければならないのである。あえて顰蹙を買うことを恐れず、他のページのリンクにお世話になっていることを忘れて言わせて頂くなら(^_^;)、リンクはホームページ維持者にとっては、大きなお荷物なのである。そんなわけで私は、リンクのページを更新するのは年に一回程度しか行ってこなかったのだが、今回は思い切って全面的にCGIプログラムを取り入れて、リンクをセルフサービスにすることにした。

 また「管理者の手間」以外の面でも、ユーザー的にも良い点がある。従来のリンクだと、ひとつのページに対して無理やりひとつのジャンルに括って登録しなければならなかった。たとえばこのページの場合、「ライヴ系」「コンサート情報」「コンサートホール」「チケット売買」など様々なジャンルをコンテンツに含んでいるにもかかわらず、登録する場合はどれかひとつのジャンルに絞らなければならなかった。だから必ずしもジャンルが適当ではなかった例も多いと思うんだけど、今回のリンクの場合は、ひとつのページに対して複数のジャンルに登録が出来るので、ある程度ヒット率の高いジャンル分けが出来ているのではないかと思う。

 もちろん勝手にリンクを登録されてしまうと、無関係なページ、いかがわしげなページも登録されてしまい、かえって削除の手間がかかりそうなので、最終的な登録の判断は管理者が行うことになるんだけど、リンクの登録もフォームから申請が出来るし、従来よりはとっても楽。従来はリンクの依頼から最長一年かかっていたリンク集への掲載が、2〜3日に短縮できそう。そんなわけで、もしリンクに掲載ご希望の方はお気軽にどうぞ。(Links掲載の条件はここをよんでね)

 従来のリンクを移行する際に、一応全リンク先を巡回してみたんだけど、かなりの割合でドメイン取っているのね・・びっくり。急ぎ足で周ったんで、もし私が書いたコメントが相応しくない場合は、遠慮なく連絡してください。(2002/01/04)



定期会員になろう (第1回)2002年度版

 いつもオケの事務局の人に申し訳なく思っているのだが、私は定期会員の継続の申し込みの締め切りに間に合うほうがマレで、いつも電話で「どーするんですか?けーぞく」と確認の電話をもらう有様である。私のところには音楽事務所やオケだけでなく、くだらんDMも含めてたくさんの郵便がくる。そのため行方不明になったり、郵便が来たことすら忘れてしまったり、締め切りの日が何時だか解らなくなったり・・・理由は様々だが、場合によっては開封すらしない場合もある。まぁ、悪いのは私なのだが(^_^;)、ぜひオケの事務局の人にはインターネットをもっと活用することを考えてもらえないだろうか。

 そもそも郵政省メールは、カネもかかるし紙の無駄である。私のようにE-MAILを連絡方法のメインに使っている人にとってはメールを読まないということはありえないし、定期会員の継続もホームページのフォームから行えるようにしておけば、経費の削減だけでなく事務的にもかなり楽になるんじゃないだろうか。もちろん、今のインターネット普及率では郵政省メールの併用は避けられないので、インターネットの体制を整えるほうのがカネがかかるんだろうと思うけど、そろそろ考え始めてもいいんじゃないだろうか?

 で、次回から何回かに渡って「定期会員になろう」のシリーズを掲載したい。これは98年の新年に掲載したものの2002年版のつもりだが、前半部分の状況は今も変わっていないので省略し、現在、定期会員を募集しているシティフィル、都響、東京響、東フィル、日フィル、読響のプログラムや指揮者、ソリストなどを、独断と偏見を交えながらその魅力(?)を考えるという壮大な試みナノダ(^_^;)。

 ところで、いま、各オケのHPをチェックしてみたんだけど、来年度のプログラムを掲載しているのは上記のオケの中では都響、東響、東フィル、シティフィルだけで、読響と日フィル(←国内オケで最も早くHPを開設した)は来年度のプログラムを掲載していない。これは大幅減点の対象である(^_^;)。(02/01/05)



定期会員になろう 〜読響編〜(第2回)

 さて、今日から予告どおり、在京オケの来年度の定期演奏会のプログラムの見どころ、聴きどころを探っていきたい。今回はアルブレヒトという看板指揮者を擁する読響である。

読売日本交響楽団

 私の個人的なことで申し訳ないが、ワタシ的には読売と名がつくものは好きではない(^_^;)。新聞、巨人、ヴェルディ・・・どうしても、あのナベツネの顔をイメージしてしまうのだ。読響も例外ではない。演奏会の会場で他の読響公演を買おうと思っても売っていないし、ホームページも更新頻度、内容ともに、在京オケ中、最も貧弱な部類に属する。なにしろ1月10日から募集を開始する来年度定期演奏会のプログラムすら掲載されていないのだ。

 そんな読響だが、財政的にはN響と並んで最も潤沢なオケである。もちろん財政力がオケの力量を決定するわけではないが、それが有力な基盤になることは間違いない。実際、読響の来年度のプログラムは、多くの魅力がある。常任指揮者就任以来、読響のレベルアップの原動力となっているアルブレヒトは、今年度に続いて11回の定期のうち4回も登場する。6月はシュニトケ、望月京、イサン・ユン、ライマンの現代音楽、11月はポール・エルミングペトラ・ラングクルト・モルという最強?のワーグナー歌手を招いてワルキューレ第一幕、1月はマーラー5番、2月はブラ2&ベト7である。「常任」という名を冠し、系統的にオケを育てていくためには、やはりこのくらいの頻度でオケを振ってもらいたい。

 これだけではなく、N響定期で評判の高かったスクロヴァチェフスキが9月に2回も登場するのは大注目で、13日にはブル8、26日にはルトスワフスキの管弦楽のための交響曲、ベト3「英雄」を振る。さらに4月にはいまや読響の看板指揮者のひとり、ロジェストベンスキーがプロコフィエフ・プロで「アレクサンドル・ネフスキー」などを振り、日本の若手No,1との評価が高くミネソタ管弦楽団を離れた大植英次(英雄の生涯など)も登場する。その他、5月にはマンフレット・ホーネック、7月にはクラウス・ペーター・フロール、3月には今年度に続いてエマニュエル・クリヴィヌが登場する。ソリストはまだ未定の部分く、11月の「ワルキューレ」のほかは、7月にギターの村治香織(ヴィラ=ロボスの協奏曲)、12月に堤剛(エルガー)3月にピアノの児玉桃(曲目未定)が発表されているだけである。

 で、読響の充実度だが、私もこの4月以降定期会員になっているが、東京のオケの中でも最も上り調子のオケであることは間違いない。弦楽器の厚さはN響に次ぐ水準だし、ドイツ系だけでなくフランス系指揮者の要求する音色の変化にも対応できる柔軟性も持っている。管楽器もレベルは高く、安心して音楽に浸ることが出来るし、アルブレヒト就任以降、オケのヤル気度も高い。定期会員券の値段も相対的に安く、音響の良いサントリーホールということも考え合わせると、ワタシ的にはイチオシ。来年度、定期会員になるオケをひとつだけ選ぶのであれば、読響は最有力候補である。

 ただ、このオケの最大の弱点は、読売グループであることだと思う。私が思うに、読響の聴衆のオケに対する愛着度は、在京オケ中、最も薄いような気がするんだけど、やはりその原因は企業名を前面に打ち出していることと、基本的な財政を読売グループに依存しているため、オケと聴衆との協力関係をつくろうという姿勢はほとんど感じられないことである。貧弱なホームページも、このような背景が原因にあるのではないか。このようになオケだと、ナベツネの意向次第で簡単に命運が左右され、有名指揮者やソリストを呼べなくなると、「金の切れ目が縁の切れ目」的に聴衆がすぐに離れていってしまう可能性もある。かつての読売ヴェルディのように・・・(^_^;)。 なお、当ホームページで既報のとおり、読響は川崎市がJR川崎駅西口に建設中の新ホールをフランチャイズとすることが決まっている。読響が地域とどのような関係を築くのかが、読響の最大の課題だろうと思う。(2002/01/07)

読響 ポイント コメント
オーケストラ ★★★★ アルブレヒト就任以来、好調!
指揮者・ソリスト ★★★★☆ アルブレヒト、スクロヴァチェフスキ、大植英次、ポール・エルミング、クルト・モルほか
プログラム ★★★★ いわゆる名曲の割合が高いが、アルブレヒトらしく現代音楽なども
値段 ★★★★ 登場する指揮者を考えると安い
会場 ★★★★ サントリーホール



定期会員になろう 〜第3回:日本フィル編〜

 前回の読響に続いて、五十音の逆順に「日本フィル」の定期演奏会を紹介したい。今年3月に楽団創立45周年を記念して英・独・エストニア(ヤルヴィの出身国)の3カ国11都市に4回目となる海外演奏旅行を行う予定だ。このような海外公演の前後は、かなりの練習時間も取るし、気合の入った名演奏をを期待できる。ヨーロッパ公演と同じプログラムは、3月の演奏会だ。

日本フィルハーモニー交響楽団

 サントリーホールで同一プログラムで月2回の定期演奏会を行っている日本フィルは、2〜7月の「春」と9〜1月の「秋」の2シーズン制で、年間会員の募集は2月開始時のみ。2月にシーズンを開始するオケは日フィルのみである。

 日フィル定期の特徴は、大半を多彩な「冠」指揮者陣が振ることだろう。常任指揮者の小林研一郎が2回(7月にマーラー「復活」と3月にカルミナ・ブラーナ)、首席客演のネーメ・ヤルヴィは2〜3月定期でヨーロッパ公演と同一プログラムでお得意のシベリウス2番や、欧州に同行する諏訪内晶子を迎えてブルッフの協奏曲1番を演奏する。客演指揮者のルカーチ・エルヴィンは4月にバルトークとブラームスP協1、同じく客演指揮者のロッホランは5月にエルガーなどの英国プロ。指揮者の藤岡幸夫は9月にオハコの吉松隆の交響曲第2番「地球にて」改訂版初演を行い、全10回の定期のうち6回を日フィル指揮者陣が担当する。

 その他の指揮者では、6月に日フィルの常連になりつつある名指揮者ジャン・フルネがブラ2とショーソンの交響曲を振るのは注目。10月はオッコ・カムが「ツァラトゥストラは〜」、11月はセルジュ・ボドが「トゥーランガリラ交響曲」、12月は井上道義がプロコ&ショスタコ・プロを振る。またピアノのソリストでは、ブラームスの協奏曲第1番を4月に園田高弘が、第2番を10月に練木繁夫弾く。また弦楽器は諏訪内のほかにでは、5月にスコットランド幻想曲を渡辺玲子、10月にベートーヴェンのVn協をモーリス・ハッサン、11月にはショスタコのVc協をピーター・ウィスペルウェイが弾く。

 プログラムは、同一プロ2回の関係上、名曲比率は高くならざるを得ないのだろうが、必ずしもそれに偏ることなく、ヨーロッパ各地の音楽をバランスよく取り組んでいる印象だ。悪く言えば統一感がないという向きもあろうが、バラエティに富んだ選曲には好感が持てる。前回に紹介した読響と比較すると指揮者は地味目だが、日本フィルの場合は伝統的にファンとの関係を重視していて、日フィル協会を中心に楽団員との交流や音楽のある地域作りへの参加などを行ってきている。この姿勢はホームページにも現れていて、インターネットに最も早く取り組んだのは他ならぬ日フィルで、現在でも更新頻度の多い方だし、詳細な楽団史の掲載なども日フィルらしい。このような場合、オケの擁する指揮者陣(しかも指揮者との関係も長期的に作っている)の比率が高いほうがファンには支持されるのは間違いないだろう。

 残念ながら私は昨年、一度も日本フィルを聴いていないので、このオケの現在のアンサンブルがどうのこうのと言えないのだが、やや軽めでシルキーな感触の弦楽器は魅力的だと思った。チケット価格は、読響と比較すると若干高めで、座席割もS・A席の比率が高い。しかし、特定の強力なスポンサーを持たないオケの場合、この程度の価格はやむを得ないと思う。ワタシ的にはもう少しB席以下の比率を増やして欲しいのだが(^_^;)。あと、日フィルの特徴は、定期の曜日が木金に固定されているため、曜日によって仕事量のムラがある人によっては好適なオケだろう。(02/01/08)

日本フィル ポイント コメント
オーケストラ 最近聞いていないので、評価は控える。
指揮者・ソリスト ★★★☆ コバケン、ヤルヴィらの日フィル指揮者陣のほかに、フルネ、オッコ・カム。諏訪内など。
プログラム ★★★★ 名曲に偏ることなく、バランスは良さそう。
値段 ★★★ 平均的水準だが座席割は改善の余地あり。
会場 ★★★★ サントリーホール


定期会員になろう 〜第4回:東京フィル編〜

 今年度、オケ界で一番大きな話題は東フィルと新星日響の合併だったんじゃないだろうか。今回はその「新」東フィル定期を採り上げる。

東京フィルハーモニー交響楽団

 東フィルと新星日響の合併に関しては、その是非がおおいに話題となった。両オケのレベルの差をどのように埋めるのか、アンサンブルは育成できるのか、そこに鄭明勲はどこまで関われるのか、新国立劇場の座付きオケになれるのか・・・などなど。しかし、昨年6月以降の定期演奏会を聴いている限り、演奏レベルは以前の東フィルよりも向上したといっていいのではないだろうか。アンサンブルは整っているけど、どこか冷めた感じの旧・東フィルと、燃えるけどアンサンブルはイマイチの新星日響の、良い面だけが合体したような印象だ。私が聴いた範囲では、6月の鄭明勲の「復活」と11月の井上道義のショスタコ8番は感動的な名演奏だったと思う。しかしながら、これが合併による一時的なテンションの高さによるものかどうか、真価が試されるのは来年度の定期演奏会だろう。

 そのプログラムだが、詳しくはこのページを参照のこと。今年度はオーチャード定期とサントリー定期は同一プロだったのだが、来年度は微妙に違っている。まず看板指揮者であるスペシャル・アコースティック・アドバイザーの鄭明勲は、3回も登場するのは大注目だろう。6月にはマーラー5番、9月はブルックナー7番、1月は幻想交響曲をメインとした名曲プログラムを振る。全8回の定期のうち、3回も担当するというのは、かなりの力の入れようだ。桂冠指揮者の尾高忠明は4月の定期でウォルトンの1番をメインとしたプロを、正指揮者の沼尻竜典は10月のサントリー定期ではマーラー7番、11月のオーチャード定期で歌劇「イドメネオ」の演奏会形式の上演を行う(←オペラ・コンチェルタンテの代わり?)のも注目だ。また首席客演指揮者のコヴァーチュは7月にショスタコ5番を振る。その他の客演はわずか2人で、5月にホグウッドが「グレイト」中心としたプロを振り、2月に岩城宏之がオーチャード定期でラフマニノフ・プロを、サントリー定期で黛敏郎プロを採り上げる。

 こうやって定期に登場する指揮者を眺めてみて気づくのは、鄭明勲以外のほとんど(全部?)が旧・東フィル系指揮者であることだ。新星日響で人気のあったレナルトやパスカル・ヴェロの名前も見当たらないのは、新星日響ファンには複雑な心境だろう。

 ソリストでは、弦楽器は神尾真由子チョー・ヨンチャン樫本大進、管楽器ではポール・メイエシャロン・ベザリー、ピアノは仲道郁代、広瀬悦子が登場し、「イドメネオ」の演奏会形式では、吉田浩之緑川まり幸田浩子東京オペラシンガーズが発表されている。

 東フィルに関しては、いまが聴き時だと思う。定期会員になるのであれば、読響と並んで、現在、ワタシ的にイチオシのオケである。しかし、将来的にはどうだろうか? まず新国立劇場の座付オケになることを前提に2つのオケが合併したのだが、この行方がどうにも不透明だ。もし座付オケになることが出来ず、2つ分のオケの人数を支えられる仕事が確保できない場合にはリストラなども心配される。また、定期的に公開リハーサルなども行っているものの、聴衆との交流や支援の組織化などにも積極的な姿勢は感じられない。いまは合併直後のの緊張感から良い演奏を繰り広げているが、これを将来に渡って維持するには、それなりの基盤の整備が東フィルの課題になるのではないだろうか。(02/01/09)

東京フィル ポイント コメント
オーケストラ ★★★★ 合併以来、レヴェル向上。今が聴き時。
指揮者・ソリスト ★★★★ 鄭明勲を中心に旧・東フィル指揮者陣がメイン。
プログラム ★★★★ かなり名曲度は高いが、演奏会形式のオペラなどは東フィルらしい
値段 ★★★★ かなり安め。座席割も良心的だ。
会場 ★★★★ サントリーホール
★★☆ オーチャード、ただし3階席は★★★★




定期会員になろう 〜第5回:都響編〜

 連載も5回目となるが、今回から星取表(?)の「プログラム」の項目の基準を変更して、「プログラムの個性」を基準に★をつけたいと思う。・・・というのは、人によって名曲的なプログラムを希望する人もいるし、現代音楽や秘曲的なものを期待する向きもある。それらを同一に考えてプログラムを採点しても意味がない。むしろ、在京オケの中で、どれだけ個性的かどうかがポイントになるのではないだろうか。とが言っても何を持って個性というのかは、難しいところだけれど・・・(^_^;)。

東京都交響楽団

 昨年、東フィルと並んで話題を振りまいたのが都響ではないだろうか。都響はそのスポンサーである東京都の財政危機から、経営改善計画の中で99年度には14億円程度だった東京都の補助金が2003年度には10億円まで段階的に減額される方向が打ち出されており、楽団員の給与や団員数の削減などが朝日新聞などで報道された。補助金削減を埋めるための営業活動なのか、看板となるベルティーニ=都響のマーラー・チクルスも埼玉・横浜への売り公演となり、財政基盤の確立に向けて賢明な活動を行っている。しかし財政的な問題は定期演奏会のプログラムにも現れてきており、今年度までは2プロ2日だった定期が来年度は1プロ2日に変更されることになった。

 登場する指揮者を見てみよう。音楽監督のベルティーニは2回登場し、6月はブラームスVn協、ドビュッシー夜想曲、ボレロ、11月にはバルトークのオケコンなどの曲を振る。10回の定期中、2回の登場は例年のとおりだが、他のオケでは超明勲が3回(8回中)、アルブレヒトは4回(11回中)と比べると寂しいといわざるを得ない。名誉指揮者のジャン・フルネは4月にラヴェル、ラロ、ルーセルなどのプロを振り、首席客演指揮者の小泉和裕は10月にベートーヴェン・プロを採り上げる。

 都響指揮者陣以外では、5月に大山平一郎がOb協奏曲と「英雄」、12月には佐渡裕がドヴォ・コンとフランクの交響曲。1月は井上道義がお得意のショスタコの中から「メーデー」を採り上げるのは注目で、2月はバルシャイがマーラーの交響曲10番(バルシャイ版)も面白そう。3月は今年度に続いて金聖響がベートーヴェンVn協と幻想を演奏する。なお9月に登場するはずだった朝比奈隆の代役については、まだ発表されていない。

 弦楽器の主なソリストでは、庄司沙矢香ガイ・ブラウンシュタインギル・シャハム(以上Vn)、クイリン・ヴィルセンデニス・シャポヴァーロフ(以上Vc)、管楽器ではフサンソワ・ルルー(Ob)、ピアノでは園田高弘ニコライ・ペトロフが発表されている。詳しいプログラムはこのページを参照のこと。

 同一プログラムで2回公演を行うために、従来よりもかなり名曲志向が強いプログラムになり、都響の看板公演だった「日本の作曲家シリーズ」も定期演奏会から外されることになった。このシリーズの是非は別にして、プログラムの「都響らしさ」がかなり後退したことは否めないだろう。また看板公演だった朝比奈隆の死去により、見込みどおりに定期会員を出来るのか心配になる。

 しかし、都響の演奏レベルは昨年あたりからかなり改善されてきていて、特にベルティーニとのコンビによる昨年4月のヴェルディ「レクイエム」や11月のショスタコの5番は燃えに燃えた感動的な演奏だったし、従来は弱点とされてきた金管楽器の水準も大幅に改善していることを忘れてはならない。もちろん弦楽器のレベルは、在京オケの中で一二を争う水準であることは変わりはない。プログラム的な意味での個性は失われているけど、それを必ずしも悲観する必要はないのかもしれない。それに都響定期は、東京文化会館であればEx席が10回で14,000円で聴けるのだから、在京オケ中最安!かなりお買い得度は高い。

 都響の問題は財政的な問題もさることながら、その克服の方針が良く見えないことである。来年度('02年度)は1プロ2公演だが、再来年('03年度)は全10回の定期のうち6回は同一プロ、4回は別プロになるという。はたして4公演だけ別プロにするメリットというのは何なのか、都響の事務局は都響定期をどうしたいのかがさっぱり見えてこないのである。またサポーター組織として「都響倶楽部」を立ち上げた。しかし事務局の方針が良く見えない中で、果たしてホントの意味でパートナーシップ(協働関係)を築けるのかどうかは、まだまだ未知数である。(2002/01/11)

都響 ポイント コメント
オーケストラ ★★★★ 演奏レベルは向上中。弦は特に優秀。
指揮者・ソリスト ★★★☆ ベルティーニ、フルネ、バルシャイは注目。ギル・シャハム(Vn)。
プログラムの個性 ★★★ かなり名曲度は高め。従来の都響らしさは薄い。
値段 ★★★★☆ 在京オケで最安レベル。座席割も良し。
会場 ★★★★ 東京文化会館(Aシリーズ)
★★★★ サントリーホール(Bシリーズ)



定期会員になろう 〜第6回:東京シティ・フィル編〜

 さあ、6回目は東京シティフィルである。
 シティフィルは東京では最も新しいオケに属するけど、飯守泰次郎が常任指揮者に就任してから注目度は急上昇している。昨年度はベーレンライター版を用いたベートーヴェン・チクルス、今年度はハイドン/ブラームス・シリーズを行ったし、特別演奏会でセミステージ形式の「ラインの黄金」「ワルキューレ」を上演し、喝采を集めた。飯守らしいプログラムが魅力のオケである。

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

 シティフィル定期の特徴は、何と言っても常任指揮者・飯守泰次郎が全10回の定期演奏会のうち6回(!)も担当するということだ。これほど「常任」指揮者の名前に相応しい指揮者は、他にいないだろう(^_^;)。しかも、飯守はきちんとポリシーを持ったプログラムを携えて定期に取り組んでおり、次シーズンから2年にわたってメンデルスゾーン/ブルックナー・シリーズを行う。来年度は、メンデルスゾーンのSy.3,4、「真夏の世の夢」、オラトリオ「聖パウロ」など、ブルックナーではSy.4、5、6を演奏する。また首席客演指揮者に就任する予定の矢崎彦太郎も2回登場し、6月にメシアン没後10年、3月にはプロコフィエフ没後50年を記念したプログラム(P協3、ロミ・ジュリ組曲」など)を採り上げる。その他の指揮者では4月にドモンシュ・ヘーヤがロシア・プロ(チャイコP協1、ショスタコ12番など)、12月にエーリッヒ・ビンダーがブラームスVn協、エルガー「謎」などを演奏する予定だ。

 ソリストでは、弦楽器はVnの朝枝信彦のみ。一方ピアノは4人と多く、児玉桃(チャイコ1番)、藤井一興(メシアン)、山口研生(メンデルスゾーン)、清水和音(プロコ3番)が登場する。歌手では、「真夏の世の夢」で大島洋子菅有実子平野忠彦、「聖パウロ」では緑川まり寺谷千枝子吉田浩之らが発表されている。

 私は今年度、初めてシティフィルの定期会員になって何回か聴いたのだが、指揮者によってこれほど変わるオケというのも珍しいと思った。まず常任指揮者の飯守が振ったときのシティフィルだが、これはかなりレベルの高い演奏を聴かせてくれる。特別演奏会の「ラインの黄金」や「ワルキューレ」は、アンサンブルと演奏の温度が高い次元で両立した名演奏だったし、今年度のブラームスもそれに近いレベルだった。しかし他の指揮者だと、演奏の水準がガクッと落ちてしまうのである。弦の音程はやや不揃いが目立つし、音色的にもまだまだ魅力的とは言いがたい。たぶんオケの基本的な能力は、他の指揮者が振ったときの水準なのだろうが、飯守が振るとアンサンブルが大幅に向上するのがはっきりと解る。まだまだ発展途上のオケだけど、オケと指揮者の相性を語る上で、このオケほどの好例は他にないだろう。だからこそ、飯守が定期演奏会の過半数を受け持つのだろうが、少なくとも飯守=シティフィルを聴く限りにおいては、決して他の在京オケに遜色のない、もしくはそれ以上の演奏も聴くことが出来るだろう。

 また飯守の登場する回の定期では、指揮者自身のプレトークもあり、聴衆との交流にもかなり熱心に取り組んでいる点には好感が持てる。指揮者やオケ、登場するソリストのネームバリューの点のおいて派手さはないが、在京オケの中では際立って個性的なプログラミングと、飯守泰次郎の情熱あふれる演奏は魅力的である。(2002/01/13)

シティフィル ポイント コメント
オーケストラ ★★☆ 発展途上だが、指揮者次第で大幅向上も!
指揮者・ソリスト ★★★ 飯守泰次郎が6回! 矢崎彦太郎が2回など。
プログラムの個性 ★★★★★ メンデルスゾーンとブルックナー・シリーズに2年がかりで取り組む。
値段 ★★★★☆ 在京オケで最安レベル。座席割も良心的。
会場 ★★★★ 東京文化会館



定期会員になろう 〜第7回:東響編〜

 最終回となるのは東京交響楽団である。東響は1946年の創設だが、来年3月には定期演奏会が500回目を迎え、秋山、大友、飯森の指揮者陣が揃い踏みし、記念の定期演奏会を行う。また新潟市と準フランチャイズ契約を結び、1999年以来、新潟定期を開催しているのも活動の大きな特徴だ。

東京交響楽団

 東響定期に登場する指揮者の特徴は、全11回の定期のうち7回も東響指揮者陣が振るというところにある。その内訳は、来年3月9日の500回記念の三指揮者揃い踏みの公演はもちろんだが、音楽監督秋山和慶は2回、正指揮者大友直人が2回、指揮者飯森範親が1回、首席客演指揮者のユベール・スダーンが1回だ。その他の客演としては下野竜也アントニオ・ピロッリ大山平一郎である。プログラムの詳細は、別にページを作ったので、そこを参照のこと(^_^;)。

 ソリストは、弦楽器が3人でレジス・パスキエ(Vn)、清水直子(va)、アンリ・ドゥマルケット(Vc)、ピアノが4人でアレッシオ・バックス 小川典子及川浩治リサ=ユイ。歌手は未発表も多いが、フォーレのレクイエムで森麻季田中勉、特徴的なのは11月の「仮面舞踊会」のオペラアリアで佐藤しのぶ市原多朗、12月の定期でスィングル・シンガーズが登場する。

 プログラムの特徴は、毎回テーマを決めている点にあるだろう。だがテーマとプログラムがしっくりこない月も多いように思えるのは私だけだろうか。もしかしたら、私の気が付かない繋がりがあるのかもしれないが、6月の「あらゆる分野の巨匠たち」なんていうテーマってなぁ・・・(^_^;)。でも忘れてはならないのが、東響は年に一回、大注目の現代的オペラを定期演奏会の中に取り入れていることで、来年度は3月29日にジョン・アダムスの「エル・ニーニョ」をピーター・セラーズの演出付きで上演するのは大注目だろう(この回のみ、指揮者・ソリスト等は未公表:会場は東京芸術劇場になる)。

 このオケの状態は、最近は新国のピットでの演奏しか聴いていないので評価は控えることにする。定期会員券の値段は在京オケの中ではやや高めの部類に属し、指揮者やソリストも必ずしも派手ではないが、プログラムは「東響ならでは」の特徴がある。他のオケと比較してソリストの数が多く、かなりバラエティに富んだ顔ぶれを楽しむことが出来るし、演奏会形式のオペラや、毎年12月のポピュラーなコンサートを用意していることは、このオケの魅力だろう。(2002/01/15)

シティフィル ポイント コメント
オーケストラ 最近は聴いていないので評価は控える。
指揮者・ソリスト ★★★☆ 秋山・大友・飯森など。ソリストの顔ぶれは多彩
プログラムの個性 ★★★★ 「エル・ニーニョ」やヴォーカル・グループの特集など。
値段 ★★☆ N響に次いで値段が高い。座席割は良。
会場 ★★★★ サントリーホール(3月のみ芸劇)




ベルリン国立歌劇場:ニーベルングの指輪「ラインの黄金」

 今年最初のコンサート・・・じゃなくってオペラは、なんとバレンボイム率いるベルリン国立歌劇場の引越し公演である。演目はワーグナーの「ニーベルングの指輪」で、私はぬわんと神奈川県民ホールの第一チクルスのセット券を買ってしまったのだ。座席はC席なので、33,000円×4公演である。ワタシ的には空前絶後(^_^;)の高額チケットだが、このようにワタシを血迷わせたのは、ワーグナーの「リング」という演目がなせるワザであろう。ワタシはそれほど熱烈なワグネリアンというわけではないが、それでもチクルスで見たいという願望を呼び起こさせてしまうのだ。まぁ、新国立劇場でも近いうちにチクルス上演が可能になるので、かつてのようなステイタスはなくなったのかもしれないけど、それでも会場は概ね満員に近い盛況だった。

 さて、昨日は日本公演初日だったわけだけど、やはり比較の対象は昨年4月の新国立劇場の「ラインの黄金」になるだろう。明日以降の公演が控えていて早く就寝したいので(^_^;)、超簡単に書くと、演出は新国立劇場の圧勝!!クプファーの演出だけど、・・・うーん、今となっては斬新さはぜんぜん感じないんだよなぁ。ラインの黄金がどこで光っているのかぜんぜん見えないし、アルベリヒの変身する大蛇もぜんぜん小さくて迫力ゼロ。捕らえられたアルベリヒが身代金として地下から運ばせる金塊もしょぼいし、ワルハラ城への入場のところで、神々がおてて繋いで踊るのなんておマヌ〜。

 その一方で、歌手はベルリンの勝ち! どの歌手も良かったが、ヴォータンのシュトルックマン、アルベリヒのギュンター・フォン・カンネン、ミーメのペーター・メンツェル、フリッカのローズマリー・ラングは特に良かった。巨人族も良かったが、この役柄にしてはちょっと知性的過ぎる感じかな。オケは・・・ベルリンのほうが巧いし音も厚いんだけど、神奈川県民ホールはぜ〜んぜん響かないので、管弦楽の判定は大差なし。このオケ、前回の来日時に方が巧かったような気がするんだけど、気のせいかな?ちょっと音が荒れていたような感じだったのだが、明日以降の改善に期待しよう。そしてワタシ的独断的総合的感銘度では、な・なんと新国立劇場の「ラインの黄金」の方が数倍面白かったというのが正直なところなのである。こうやって考えると、新国の「ラインの黄金」ってレベル高かったんだなぁ。(2002/01/17)




ベルリン国立歌劇場:ニーベルングの指輪「ワルキューレ」

 さすがに「リング」2日連荘はしんどいなぁ・・・・なんて言っていたらワグネリアン失格なんだろう(^_^;)。でも午後4時半開演で、終わったのが午後9時45分。35分の休憩が2回入ったけど、さすがに長いっ!・・・これで長いとか言っているようじゃ、まだまだ修行が足りんな。

 昨日の「ワルキューレ」は、リンデン・オーパーの前回来日時にも持ってきた演目で、演出も全く同じものである。「ラインの黄金」では新国の演出の圧勝?だったが、この「ワルキューレ」の場合は昨日の舞台を見てもほとんど「古さ」を感じなかった。これは「ラインの黄金」と違って、いろいろな仕掛けが挿入しにくい演目なのが原因なのだろうと思う。演出に対する印象は前回と同じなので省略。

 さて歌手に関しては、まったく申し分ない。私なんぞが過去に聴いてきたワーグナー体験では、全く批判できるものがない水準である。ワタシ的にはフンディングのルネ・パーペが最高っ!前日の巨人役ではちょっと知性的過ぎるような気がしたが、フンディング役での存在感は圧倒的で、ホールを一閃する声は素晴らしい。マイヤーのジークリンデ、ポラスキでのブリュンヒルデなんて、そうは聴けない超A級キャストで、前評判に相応しい出来栄え。「ライン」ではフロー役で存在感が薄かったロバート・ギャンビルも、「ワルキューレ」ではヘルデンテノールに変貌し、強固な意志の強さを感じさせる歌声を聞かせてくれた。ヴォータンのシュトルックマンも素晴らしく、歌手的には文句なしっ!

 でも、どうしても気になったののがオケなのである。はっきり言って、前回来日時よりもレベルダウンしているんじゃないだろうか。金管楽器の音色はイマイチだし、特にホルンが危なっかしい。ダイナミックレンジは広く、デカイ音はホールを満たすに十分なんだけど、管弦楽全体の音色の変化が乏しいので、音楽的な表情が乏しいのである。音楽的に求心力に欠けているし、ワーグナー的なうねりも薄いので、聴き手の集中力も途中で途切れてしまうこともあるのだ。やっぱりワーグナーの場合は、歌手が良いだけでは満足できないので、ちょっとイマイチ度が高かったかな〜と言うのが正直な感想なのである。(2002/01/18)



ベルリン国立歌劇場:ニーベルングの指輪「ジークフリート」

 「ジークフリート」は単独で上演されるがマレな演目なので、私はナマで見るのは初めて。映像ではずーっと前にBSで放送したシェロー演出のものを見た程度である。その意味で、今回のチクルスで一番楽しみにしていたのは、この「ジークフリート」だ。午後4時に始まった舞台は、40分の休憩を2回はさんで、終わったのが午後9時半ごろ。さすがに長丁場だったが 「リング」神奈川公演は3日目にしてやっと、と言う感じで、幕切れは感動的!ワーグナーを聴いたゼ・・・という実感をひしひし感じる公演だった。

 まずはオケの演奏だが、「ライン」「ワルキューレ」の時よりも向上して、少なくとも舞台全体のレベルの足を引っ張るようなことがなくなった。まだ前回来日時のレベルに戻っているとは言いがたいが、それでも音色のパレット、表情の豊かさは感じるようになったし、金管の安定度も増している。もちろん、音量の豊かさ、クレッシェンドの頂点の高さは初日から変わっていない。多分、第2チクルスあたりから本当にいい演奏を聴かせてくれるのではないか・・・と思う。

 歌手では、難役中の難役であるジークフリートを歌ったクリスティアン・フランツが大健闘。セーヴして歌っているのかもしれないが、声量はあまり大きくはないので会場を制圧するような支配力は乏しい。しかし、輝かしく甘い声は、適度なヘルデン性を持っていて、青年ジークフリートの若さの表現、喜怒哀楽の表情も豊かだ。ワタシ的には声で押しまくるテノールよりも、こちらのほうが好ましいと思う。ブリュンヒルデ=ポラスキとのラストシーンはこの日の舞台で一番の見せ場で、神性を拭い去りながらジークフリートへの愛に目覚めていく様は感動的だった。この日でさよならのさすらい人=ヴォータン=シュトルックマンも安定した出来で、この日のカーテンコールで一番の大きな拍手が贈られていたが、3日間ご苦労様の意味も込められていたのだろう。ミーメを歌ったグレアム・クラークは「ライン」ではローゲを歌った人。狡猾なキャラを存分に表現して、こちらもカーテンコールで大喝采。小鳥役の天羽明恵は、最初はちょっと緊張したのか、声が硬かったのがちょっと残念だったかな。でも、これだけのキャストの中で、端役とはいえよく健闘したと思う。

 「ジークフリート」はやたらと「説明」が多い演目で、第一幕〜第2幕の半分くらいは物語のあらすじを登場人物が代わる代わる話してくれるのが、いささかクドイ。「ジークフリート」の人気の少なさはここら辺りに原因があるのだろうけど、クプファーの演出はその辺りを上手に見せてくれている。第一幕の鍛冶場は、3階建構造で、ミーメやジークフリートはその鍛冶場を上へ下へと動き回って、見ていて飽きない舞台に仕上げているし、第2幕の大蛇も、舞台一面に倒れた巨木が昇降装置によって不気味に動いて迫力を感じさせる。退治そのものはあっけないが(^_^;)、小鳥をさすらい人が操っているのが視覚的に見えるのもわかり易い。第3幕では、ジークフリートに扮したスタントマンが、背景で赤々と燃える格子状のネオン管をよじ登って、奈落に飛び込むシーンも良く考えられているなぁ・・・と感心したし、ジークフリートとブリュンヒルデの愛の場面は、何もないフラットな舞台で繰り広げられるが、逆に舞台上の二人の求心力を高めているように感じた。クプファーの演出は、適度な説明を視覚的に付け加えながらも、全体としてはシンプルでわかりやすいのが好印象だ。

 いよいよ23日は「神々のたそがれ」。オケのより一層の奮起を期待するっ!(2002/01/20)



ベルリン国立歌劇場:ニーベルングの指輪「神々の黄昏」

 これまで3日間のの苦行ともいえる(^_^;)長時間の上演に耐えた者のみに許されるクライマックスが「神々の黄昏」である。午後4時に始まった上演は、休憩2回を挟んで終わったのが午後10時10分。なんと6時間以上ホールの中に缶詰になっていたわけだけど、フツーの人からすれば文字通り苦行そのものに違いないが、ワグネリアンにすればナニモノにも勝る喜びになるのだから面白い。

 さて、その最終日はどうだったのか・・・というと、ワタシ的満足度で言うと、中程度の満足度と言ったところだろうか。ところどころにイイと思える時間が訪れたのは間違いないが、最後の最後まで忘我の境地に至ることは出来なかった。その原因はどこにあるのかといえば、やはり管弦楽じゃないだろうか。初日から問題だったが、アンサンブルの荒さは日が経つにつれて改善はしたものの、ついに最後まで満足すべき水準に至ることはなかった。音の大きさと厚さはスゴイが、アンサンブルの精度に関しては、たぶん日本のオケのほうが上だろうと思う。

 歌手に関しては、ブリュンヒルデとジークフリートは、今後の日程を考慮したのか、声量をセーヴ気味かなと思ったけど、やはり実力はある歌手だ。キメどころはきちんとオケを突き抜ける声量を見せてくれる。「神々の黄昏」のクライマックスは、何と言っても第3幕がクライマックスだけど、その中で歌ったジークフリートの思い出話の柔らかな歌い口は実に見事だったし、ブリュンヒルデの自己犠牲も内包された感情が声となって聴き手に迫ってくる。ハーゲンは「ライン」でファーフナーを歌ったドゥッチョ・ダル・モンテだったが、もう少し声量があると悪役振りが光るのではないか。

 あと演出だが、さすがにクプファーだけあって、よく考えられている。たぶん、私が今後の「リング」上演を見ていくうえで、この演出がスタンダード=比較の基準になると思う。初日の「ライン」を見て、「新しさを感じない」などと書いたが、やはり最後まで見ると首尾一貫した構想の下に筋の通った演出であることが良くわかる。時代設定はモダンかもしれないが、その内実はオーソドックスな解釈が貫かれていて、奇をてらったという感じがしないのだ。

 カーテンコールは、もちろん盛り上がったが、終演時間も遅かったせいかカーテンコールは15分程度で終わってしまったところを見ると、ワーグナー特有の陶酔感に酔いしれたという人は意外と少なかったのかもしれない。私は第3チクルスの「ジークフリート」と「神々の黄昏」をもう一度見る予定だが、たぶんオケのアンサンブルが向上してくれないと、また不完全燃焼になりそうな気もするのだが・・・。(02/01/24)