新国立劇場
ヴェルディ「リゴレット」

(文中の敬称は省略しています)

●2000/06/11(速報版) 新国立劇場の1999/2000シーズンの最後を飾る「リゴレット」の公演。レオ・ヌッチ、アンドレア・ロスト、ピエトロ・バッロなど超一流キャストを呼んで前評判の高いプロダクションだったけど、ふたを開けてみればヌッチは降板、バッロも健康上の理由で前半の公演はキャンセルとなって、いささか水を刺された感じ。

配  役 6/11 6/17
リゴレット アレクサンドル・アガーケ
ジルダ アンドレア・ロスト
マントヴァ公爵 ティート・ベルトラン 佐野 成宏
スパラフチーレ 久保田 真澄 彭 康亮
マッダレーナ 永田 直美 高尾 佳奈
モンテローネ伯爵 栗林 義信 泉 良平
ジョヴァンナ 志村 年子 河野 めぐみ
マルッロ 谷 友博 久保 和範
管弦楽 レナート・バルンボ指揮 新星日本交響楽団
演出 アルベルト・ファッジョーニ

 「サロメ」「ドン・キショット」と続けて良い上演を見せてくれた新国立劇場だったけど、公演初日を見終わってみての感想は、前2回の上演と比較すると見劣り、聴き劣りする上演になってしまったような印象だ。前2回の公演は演出家の主導のもとで、その意図がピシッと貫かれた上演であったのに対し、今回の「リゴレット」には誰が主導しているのか最後までわからなかった。少なくとも演出は凡庸で、指揮者も舞台をリードしていなかった感じなので、あえて言えば歌手主導だったような印象。歌手それぞれは知名度なりの実力派ではあるんだけど、その歌手たちの自己主張を束ねる統一感が希薄になってしまって、リゴレットというオペラのストーリー性=悲劇性が意外なほど感じられなかったのである。

 アガーケは新国立劇場では狭すぎるほどの声量の持ち主だけど、声の締りがイマイチで、喜怒哀楽の表情が伝わってきにくい。リゴレットがいくら怒っても悲しんでも、その表情の差が少ないのである。アンドレア・ロストはこの日一番の拍手を集めていて、すべての音域に渡って安定した歌声は見事。ワタシ的にも好みの歌手ではあるんだけど、この人も感情が伝わってきにくい感じ。マントヴァの身代わりになって死んでしまう必然性が伝わってこないのである。急遽代役に立ったベルトランも、第一幕はすごく期待を持たせる歌声だったんだけど、第2幕になったら声が荒れてきてちょっとガッカリ。もっと軽い声じゃないとマントヴァらしくないんじゃないかな。日本人歌手も含めてみんな、きちんとした実力の持ち主なんだろうと思うんだけど、それがひとつの方向に向いていないもどかしさを感じてしまった。管弦楽のバルンボ=新星日響も堅実ではあるけれど、音の立ち上がりの鋭さとか躍動感には今ひとつ向上を望みたい。

 カーテンコールもそれなりに盛り上がったんだけど、どこか冷めた感じ。盛大にブラボーが飛んだのはロストとアガーケで、あとはそれなり。これなら「ドン・キショット」の初日の反応の方が、はるかに高評価だったと思う。初日を聴いた上でのワタシ的な予想では、15日の直野=ロスト=佐野か、18日の直野=天羽=バッロの日が、一番充実した演奏が聴けそうな気がするんだけど果たしてどうだろうか。