フィリップ・ヘレヴェヘ指揮
コレギウム・ヴォカーレ

(文中の敬称は省略しています)

●2000/05/27 今年はバッハ没後250年を記念するコンサートがたくさん企画されているけど、その中でもヘレヴェヘ=コレギウム・ヴォカーレによるバッハ三大宗教曲は大きな注目を集めていて、この日のヨハネ受難曲もほとんど満員の盛況。私は普段、あまりバッハは聴かないほうなんだけど、今年は「にわかバッハ・ファン」になると心に決め、スケジュールに都合があえばなるべく聴きにいこうと思っていたんだけど、このトリフォニー・ホールのシリーズは私が買おうと思ったときには安い連続券は売りきれの大盛況。バッハ・ファンはもともと多かったんだろうと思うけど、今年になってバッハ・ファンになった人もかなり多いに違いない。

 キリストの受難を描いた「受難曲」では圧倒的に「マタイ受難曲」が有名だけど、この「ヨハネ受難曲」はマタイに比べて演奏時間は短く2時間程度。ナマで聴くのは初めてだけど、ストーリーも凝縮されていて、物語の展開はスピーディ。音楽的にも、マタイに比べてドラマチックである。ただし、心に染み入るような説得力は、やっぱりマタイのほうが上。どちらが好きかと問われれば、やっぱり「マタイ受難曲」を取るだろうと思う。

 古楽にはトリフォニーホールでも容積は大きすぎると思うんだけど、私がこの日座った席は3階バルコニーのステージに近い席。このホールはもともと音がよく通るせいもあるのかもしれないけど、音圧的には大ホールというマイナス面は余り感じなかった。ただし、もう少し残響音があったほうが、ピリオド楽器の場合はきれいに聞こえるのかもしれない。シビアなチューニングが終わって、楽器が音楽を奏でる。ヘレヴェヘの指揮をはじめてみたけど、かなりオーラを感じさせる指揮者だ。強い集中力、妥協を許さない意思を感じさせる。そしてヘレヴェヘの音楽のアグレッシブで、音楽を前へ前へ、強い足取りでその歩みを進める。

 歌手陣も素晴らしく、福音史家のマーク・パドモアの明晰な歌唱はとても印象的で、イエスのステファン・マクロードはちょっとビジネスマン風の雰囲気もあったんだけど、感情を抑えた理性的な歌唱。テノールのブロホビッツの声がちょっと荒れていたような気がするのと、英語的なイントネーションの歌手が多かったけど、ワタシ的には大きな不満を感じなかった。計18人の合唱も、1人ひとりの実力はかなり高そう。誰一人として手を抜いているような感じは皆無。音楽の骨格がしっかりしていて、明晰なヨハネ受難曲はなかなか感動的。

 ただ休憩なしの2時間少々はちょっと長すぎで、時間的なアンバランスもあって功罪あるんだろうけど第一部終了後には休憩がほしかった。あと、字幕なしで2時間も対訳と首っ引きはしんどい。前は字幕なしでも辛抱できたんだけどなぁ。