鄭明勲=NHK交響楽団 特別演奏会

(文中の敬称は省略しています)

●2000/05/06 GWも終わりに近づきつつある5月6〜7日、チョン・ミュンフン=N響の特別演奏会がNHKホールで開催され、その初日を聴きに行った。前半は日本、韓国、中国の注目ソリストを集めたコンチェルト、後半はマーラーの「巨人」というプログラムだが、いつもの定期演奏会よりも割高な10,000円〜3,000円という料金設定にもかかわらず、かなりの客の入り。いまやメジャー指揮者の仲間入りしたチョン・ミュンフンの人気だろうか。

 私は一番安い3,000円のD席で、場所は3階最後方の一番端っこ。遠い席は慣れているけど、やっぱりNHKホールの一番後ろは遠い。音は視覚ほど遠くは感じないけど、それでもボリュームがあったら右回転ししたくなるだろう。音圧が低いのも不満だけど、一番の問題は音の微妙なニュアンスが伝わってこないこと。特にヴァイオリン・コンチェルトはその傾向が顕著で、樫本の音は決して小さくはないけれど、このホールで独奏ヴァイオリンは難しい。それでも悲しげな感情を込めたヴァイオリンは、美しくてロマンチック。あまりテクニックに頼らずに、表現力で勝負する姿勢は好ましい。

 ブルッフの「コル・ニドライ」は初聴だけど、敬虔な祈りがこもった美しい曲である。ジャン・ワンのチェロも初聴だったけど、とても奥行きを感じさせる深い音を聴かせてくれたのが印象的。そして前半の一番の華は、スミ・ジョーのオペラアリア。発音が今ひとつハッキリしない点や、ヴィヴラートが大きく、歌いまわしに少し癖が感じられる点が気になるけど、なめらかで輝きのある美声はNHKホールでも十二分に伝わってくる。この容姿ならヴィオレッタでも説得力があるし、今度は舞台姿を見たいものである。アンコールはグノーの「ロメオとジュリエット」から。

 休憩後のマーラーは、結論的に言うと残念な出来だった。オーケストラには緊張感をそこそこ感じられるんだけど、それが結果的に音になって出てきていないのが一番の問題。ホルンの音にはぜんぜんしまりがないし、ただ音が棒のように出ているだけ。チューバもキメどころでこける。木管も、ほとんどニュアンスを感じさせない音。チョンのタクトのせいだろうか、・・・パート間の音が何回かズレる。とにかく、マーラーに求められる音楽的テンションの高さがないのである。チョンらしい深くロマンチックな歌いまわしも1〜2ヶ所あったけど、それもこのオケのレベルでは全く意味がない。明らかに「平均点」以下のマーラーだったんだけど、終演後にはどうしたことは盛大なブラボー!!! おいおい、こんな演奏でブラボーしちゃいかんぜよ。どう考えても練習不足で、聴き手をナメているとしか思えない演奏である。私は拍手なしで、アンコール(ハンガリー舞曲?)を聴くことなくNHKホールを後にした。