ボザール・トリオ

(文中の敬称は省略しています)

●2000/04/18 カザルスホールが新体制になってから初めての主催演奏会が、カザルスホール倶楽部の会員に限定したこのボザール・トリオのコンサート。世界最高と言われているピアノ・トリオにもかかわらず、チケット価格は激安の3,000円ポッキリ。会員に限定したためなのかどうかわからないけれど、客席の年齢層はいつになく高い。独断と偏見による推定平均年齢は、50歳はゆうに超えているのではないか、と思うほど。別に高齢者が多くても良いのだけれど、やっぱり室内楽ファンの先細りは心配である。

 1954年に結成されたボザール・トリオも何回かのメンバーチェンジを経たけれど、オリジナル・メンバーのメナヘム・プレスラーは不動のピアニスト。しかし98年には何と弦楽器の二人が変わってしまって、ヤン・ウク・キム(Vn)とアントニオ・メネセス(Vc)が新メンバーとなった。ここまで変わると同じトリオとして扱って良いのかわからないけれど、私は過去に一度しか聴いたことのないトリオなので、以前がどうだったかあまり記憶が定かではない。しかし、今日のコンサートでは、これぞ室内楽の醍醐味という演奏を聞かせてくれた。

 このトリオの音楽の進め方は、ゆっくりした楽想の部分はよりゆっくりと静かに音楽を奏で、アップテンポな部分では推進力を上げて演奏するスタイルである。時には、もっとスピーディに・・・と思ったところもあったのは事実だけど、全体的には緩急の差が的確で、端正さは決して失わない。そして音色の美しさは、特筆に価する。とくにプレスラーの音色は、粒立ちがよく真珠のような光沢をたたえた音符がピアノからあふれ出てくるようで、こんなにキレイなピアノは久しぶりに聴いたような気がする。室内楽奏者として最も神経を使うであろう音量のコントロールも絶妙で、自己主張を湛えながらも、決してでしゃばるような事もない。これを名人芸といわず、何と言おうか。メネセスのチェロも、以前に聴いたときよりもかなりキレイになっているような気がするし、こんなに音の奥行き・深さを感じさせるチェリストも少ないのではないか。ヤン・ウク・キムのヴァイオリンは、メネセスと比べると音の密度が不足しているような気がするけど、軽やかで美しい音色は魅力的である。もちろん、メインのベートーヴェンも良かったんだけど、ワタシ的にはショスタコのピアノ・トリオがこの日のお気に入り。尊敬する故人のために書かれた追悼曲らしいけど、第一楽章の苦悩や祈りを経て登場するショスタコらしいアイロニカルな表現、そのコントラストが面白い。アンコールは、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第2番から「プレスト」と、第4番「街の歌」からアダージョ。