朝比奈=都響のブルックナー5番

(文中の敬称は省略しています)

●2000/03/29 ブルックナーの中でも朝比奈が最も得意とすると言われている交響曲第5番の演奏ということで、一回券の発売日に即売り切れとなった演奏会。売り切れとわかっていながら、当日券売り場には30人以上のキャンセル待ちの長い行列が出来た。ホールの中は定期会員のものと思われる空席があったけど、満員の大盛況である。齢九十を超える朝比奈隆がステージに登場すると、いつもの定期演奏会とは明らかに違う拍手がホールを満たす。緊張感に包まれた厳かな雰囲気で演奏は始まった。しなやか、かつ密度のある弦楽器は都響ならではのもの。木管も金管もがんばっていたし、ミスらしいミスは見当たらない。都響は、持てる力を十二分に発揮し、緊張感のある演奏を繰り広げた。しかしこの演奏は、私に不満を抱かせるものだった。

 朝比奈のタクトを取るブルックナーの演奏は、金管の音量コントロールをほとんどしていないことで有名だけど、この日の演奏はそれに輪をかけてバランスを崩していた。まるで金管楽器(ホルンを除く)のボリュームの壊れたオーケストラのようだ。見方によってはパワフルな演奏と言えなくもないのだろうけど、ニュアンスのない金管が鳴り響くと、音楽の「土台」を支える弦楽器の音をすべて消しさしてしまう。これでは、「堅牢な建造物」「構造的」と例えられる朝比奈のブルックナーの「土台」そのものを掘り崩してしまっているように思える。明らかに頭でっかちで、土台が貧弱なブルックナーなのだ。

 終演後は例のように熱烈な拍手とブラボーに包まれたけど、個人的には感心できない演奏会に終わってしまったのが残念。同じブルックナーなら、演奏の志向性は異なるとはいえ今月16日にボッセ=新日本フィルが演奏した4番のほうが明らかに充実したモノだったと思う。あと、以前の朝比奈=都響のブルックナーで問題になった補聴器のハウリング音と思われる音が、この日も聞こえたことを付け加えておく。