二期会
モーツァルト「魔笛」

(文中の敬称は省略しています)

●2000/02/25-26 新国立劇場の開業以降、影の薄くなりがちな二期会だけど、久しぶりに二期会が独自に主催した公演を見に行った。注目は演出の実相寺昭夫。ウルトラマンの生みの親であり、オペラの演出にも実績がある人である。25日の会場は若干の空席があったけど、26日は概ね満員。興行的には成功の部類だろうと思う。

配役 25日 26日
ザラストロ 池田 直樹 大澤 建
タミーノ 福井 敬 藤川 泰彰
弁者 木村 俊光 大島 幾雄
夜の女王 佐竹 由実 亀田 眞由美
パミーナ 大倉 由紀枝 佐々木 典子
侍女 渡辺 美佐子
菅 有実子
岩森 美里
岩井 理花
森永 朝子
大藤 裕子
パパゲーノ 今村 雅彦 加賀 清孝
パパゲーナ 安陪 恵美子 猿山 順子
モノスタトス 牧山 修一 吉田 伸明
合唱 二期会合唱団
二期会オペラスタジオ予科生
芸大声楽科有志
管弦楽 天沼裕子指揮 新星日本交響楽団
演出 実相寺 昭雄

 まずは注目の演出。実相寺の演出は一言でいうと「スター・ウォーズ」で、時代は明らかに未来を志向したもの。登場人物の衣装はもちろん、3人の侍女などが手にしている剣は、スターウォーズに出てくる光る剣(なんて言うんだ?)そのものである。確かに、スターウォーズと魔笛の登場人物の性格って、結構似ている部分がある。タミーノが魔笛を吹いて呼び寄せるたのは、お約束?のウルトラ・シリーズの怪獣たちで、バルタン星人、カネゴン、ピグモン、レッドキングと、名前がわからないもう一匹。(ウルトラ怪獣図鑑を持っていけばよかった・・・) おまけにパパゲーノとパパゲーナの子供は怪獣ブースカ。これには会場はオオウケである。そして一番ウケたのはパパゲーノの自殺のシーンに登場した「とまり木」で、木の着ぐるみの役者とパパゲーノの掛け合いには大爆笑! そして舞台装置も、二期会にしては金のかけたなぁ・・・と思えるものである。舞台に中央の13段の階段がすべてのシーンで用いられ、夜の女王はその上の階段が左右に分かれた中からリフトで登場する。パパゲーノが追いかける鳥は5階正面席からワイヤーで舞台まで羽ばたき、3人の童子はワイヤーでつるされた宇宙船もどきのモノに乗って登場する。・・・と、いろいろな趣向が凝らされているが、はたして何が言いたいのかはさっぱり解らない。まぁ、楽しいのは楽しいのだが、第一幕で大部分の趣向が出尽くしてしまって、第2幕は退屈・・・。一回見たらもう十分で、2回も見たいと思わせない内容で、演出としての奥行きには乏しいといわざるを得ない。しかし歌はドイツ語、せりふは日本語で上演され、オペレッタ風に現代風刺を大幅に取り入れて上演した方向には賛成である。

 音楽的にはどうかというと、これがウウム・・・。まず管弦楽が酷い。音がスカスカで、弦楽器の音にはぜ〜んぜん艶がない。これは新星日響の問題も大きいと思うけど、モーツァルトに必要な躍動感もほとんど感じないあたりは指揮者にも責任がありそう。タミーノは、初日の福井敬はいい声なのだが、演技は硬くてイマイチ。2日目の藤川は、輝かしい声と演技はいいのだが声量不足。パミーナの大倉由紀枝は声も演技も硬かったけどこれは彼女の持ち味だろう。2日目の佐々木典子は歌も華やかなら、語り口も滑らか。歌唱力と演技力を兼ね備えた内容で、両日すべての歌手を通じて一番の出来。ザラストロは両日とも声の深みに乏しく、説得力に欠けてしまった歌唱だったのだが、特に初日の池田直樹は不調。低い音が全然響いてこなかった。パパゲーノは両日とも良い出来だったけど、個人的な好みで言うと2日目に歌った加賀清隆のやわらかい声が良かった。夜の女王は、初日の佐竹由美が第一幕ではつぶれたような声でどうなるかと思ったけど、第2幕では何とか挽回。2日目の亀田眞由美は声量には欠けるものの、技巧的にはキレイにまとめて見せたと思う。総じて、歌手陣は2日目(Bキャスト)のほうが良かったけど、それでも音楽的な収穫はイマイチ。演出は楽しいことは楽しいんだけど、こーゆー楽しさってネタが割れるとねぇ・・・。

 2日間ともほとんど同じ席(5階R1列目)で聞いたんだけど、初日はテレビ収録があった関係だろうか、台詞のところに薄くPA(拡声装置)をかけている程度だったけど、2日目はオケも含めてほとんどの歌手に、かなり厚くPAを入れていた。私は不自然でなければ必要最小限のPAは使用して良いと思うのだけれど、この「魔笛」の2日目の台詞の部分はPA過剰と思わせるところが多く、耳障りだったことを付け加えておきたい。