●2000/01/27 これまで高水準の演奏会形式オペラの上演を続けてきた東フィルのオペラ・コンチェルタンテ・シリーズが今冬、取り上げたのは1912年にフランクフルトで初演されたシュレーカー「はるかなる響き」である。プログラムによると、シュレーカーは「烙印を押された人々」(1918)、「宝探し人」(1920)などの曲で1930年代までは頻繁に上演された人気のオペラ作曲家だったんだけど、ナチスによって「退廃芸術」の烙印を押され、シュレーカーの作品は舞台に上る機会が長いこと失われてしまったとのことである。しかし、ヨーロッパでは現在、シュレーカーの再評価が進んでおり、上演される機会も増えてきているらしいけど、日本ではシュレーカーのオペラが初めて舞台に上ることとなった。知名度のない作品ということも会って、会場には空席もチラホラ目立ったけど、この日はゲルギエフ=キーロフ管弦楽団の「復活」も重なって、どちらに行こうか迷った人も多かったはず。
グレーテ | 岩井 理花 |
フリッツ | 吉田 浩之 |
グラウマン | 藪西 正道 |
グラウマン夫人 | 与田 朝子 |
ガストハウス 「白馬亭」主人 |
大澤 建 |
老女 | 寺谷 千枝子 |
旅回りの役者 | 泉 良平 |
ヴィゲリウス博士 | 大久保 光哉 |
伯爵1 | 河野 克典 |
男爵/警官 | 上江 法明 |
騎士 | 井上 幸一 |
ルドルフ | 山口 俊彦 |
管弦楽 | 大野和士指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 |
合唱 | 東京オペラシンガーズ |
この「はるかなる響き」は全3幕、正味約2時間20分のオペラだけど、とても美しい音楽が散りばめられている魅力的な作品である。台本の問題や、全体的に統一感が希薄という問題点は指摘できるけれども、ぜひとも舞台で本格的な上演を見てみたい・・・そう思わずにはいられなかった。隠されていた名曲を発掘し、名演奏で上演した大野=東フィルはホントに良い仕事をしたと思う。
シュレーカーの曲は濃厚な世紀末的雰囲気を漂わせながら、美しい響きを奏でる。オーケストレーションが分厚く編成も大きいために、歌手は相当に大変だけど、ちりばめられている美しい曲の数々は今日に復活蘇生させるに相応しいものである。1930年代当時に、R・シュトラウスと並ぶ人気作曲家だったというのもうなずける。台本的は、フリッツが理想となる「はるかなる響き」を追い求めるために恋人グレーテと別れて旅に出るところから始まるストーリーで、最後にはフリッツは新作のオペラを書き上げて上演するが失敗、失意の中でグレーテが現れ、その腕の中で亡くなる直前に追い求めていた「はるかなる響き」を聴く・・・という滅茶苦茶な空想的なストーリー。台本はシュレーカーの自作なので、このフリッツは自分自身なのかもしれない。大野=東フィルの演奏水準も実に高く、上演時間の2時間20分、私はこの魅力的な作品を十二分に楽しませてもらった。
歌手的には、オーケストレーションの関係もあって響きが不足したところが多かったけれど、みんな健闘していたと思う。現在来日中のキーロフの歌手たちと比較してしまうと可愛そうだけど、この作品をきちんと上演するには、キーロフ級の声量が必要なのかもしれない。東京オペラシンガーズの合唱はいつもながら実に見事。これだけはキーロフと比較しても、同等の水準と評価できると思う。今年8月にはヴェルディの「オテロ」を2回、2001年2月には沼尻竜典がオペラコンチェルタンテに初登場してストラヴィンスキー「夜鳴きうぐいす」とツェムリンスキー「王女様の誕生日」を上演する予定。その先が2002年8月とプログラムの公演案内に書かれているけど、2002年ってことは一年半も空いちゃうの?・・・ホント??