第250回名曲コンサート
広上淳一=日本フィル

(文中の敬称は省略しています)

●2000/01/08 このページで日本フィルの演奏会を紹介するのは、すっごく久しぶりである。すでに買っている都響、NJP、東フィルの定期ですらまともに行けていないのに、これ以上、他のオケのチケットを買ってまで行く気はしないというのがホントのところなんだけど、今回の名曲コンサートは何故か招待券がまわって来て行くことになったコンサートである。日本フィル「名物」のポピュラー・コンサートだけど、指揮者は注目の広上淳一、歌手には坂本朱、福井敬、大島幾雄と揃えて、単なる「名曲」に頼ったコンサートに終わらせないという意気込みを感じさせる。コンサート会場となったサントリーホールはは概ね満員となった。

 いつもサントリーホールで座っている席よりも、かなりステージに近い席だったので、普段とは聴覚上の感じが違ったんだけど、日本フィルの音は南欧的な明るさを感じさせて、曲のイメージを良く表していたと思う。 音の線がもす少し細ければな私の好みだったんだけど、エッジが利き、輪郭のハッキリした音は、かなり良い。日本のオケの音はフランス物をやってもちょっと暗い音になりがちなんだけど、シャブリエもボレロもスパニッシュな明るい雰囲気が出ていて良かったし、よく訓練されたアンサンブルも好印象である。広上の正統的で奇をてらわない解釈。ボレロではインテンポで、最後のクレッシェンドとカタストロフィーに持っていくあたりの手腕は見事。でも、木管や金管にもうちょっとニュアンスに富んだソロを聴かせて欲しかった。

 後半は「カルメン」のハイライト。名曲の宝庫と言える演目だけど、全曲を舞台上演するよりも、抜粋で演奏会形式のほうが満足できる演目かもしれない。今回はミカエラ抜きの主要3キャストで、約45分程度にまとめた抜粋上演である。オケの音色的には、前半の良さを引き継いだ好演。デュナーミクの幅も比較的大きくとられて、一般的なオペラでの演奏よりも音の輪郭が明確で、ダイナミックな演奏となった。広上が作り出す音楽の流れは至って自然で、安心して聴けるのが良い。これは演奏会形式ならでは良さかもしれない。

 坂本朱のカルメンの声は、滑らかで表現力が豊か。舞台上の振りも様になっていて、なかなかの演技力も見せた。カルメンに必須の色気には、ちょっと欠ける声であることは否めないが、これはこれで一つの役作りだろうと思う。ドン・ホセを歌った福井敬は、さすが! テンションが高く密度の高い声がホールを満たすのは一種の快感と言っても良い。ただし、ドン・ホセの役作りとしてはちょっと問題で、この日の福井敬の声だと英雄のよう。ドン・ホセはどこか小心者で、カルメンに流されてしまう意思の弱さが出ていないと、役作りとしては説得力に欠けてしまう。福井敬には役柄による描き分けが欲しかった。大島幾雄のエスカミーリョは、他の2人に比べると分が悪く、声が響いてこないのが残念。

 全体的には、単なる名曲コンサートに終わらせないという意気込みが感じられ、水準が高い「カルメン」を、十二分に楽しむことが出来た。このようなオペラの演奏会形式抜粋というのは、もっと上演されていいのではないかと思う。どうせやるなら歌舞伎の国立劇場で行われている鑑賞教室みたいなものを、新国立劇場(どーせ、空いている日のほうが多いんだから・・・)などでやれば、きっとオペラ・ファンの増加につながるんじゃないだろうか。