シベリウス交響曲全曲演奏会 Vol.1
オスモ・ヴァンスカ=フィンランド・ラハティ交響楽団

(文中の敬称は省略しています)

●1999/10/11 トリフォニーホールは、良い企画の主催公演を行うことが多い。結果には必ずしも結びついてはいないけど新日本フィルのフランチャイズとして契約したのも慧眼だったし、毎年1〜3月に行っている地方都市オーケストラ・フェスティバルも、きっと地方オケの実力向上につながる演奏会になるだろうと思っている。また来年に予定されているバッハの三大宗教曲演奏会は、連続券の安いチケットの方は早々に売りきれとなる好評だ。サントリーホールにように華々しい企画は少ないけれど、トリフォニーホールの企画力は地味ながら、その水準は高く評価すべきだ。今回のシベリウス交響曲全曲演奏会も決してメジャーではないけれど、北欧で最近評価を挙げているオケを日本に紹介する好企画である。この全4回にわたる演奏会期間は、他にもホグウット=東フィル、インバル=都響などの「ライバル」がいたにも関わらず、かなりの連続券が売れたようだ。

 北欧のオケはこれまでにも何回か聴いたことがあり、今年6月にはサラステ=フィンランド放送響を聴いたばかりだ。北欧のオケ・・・というようにひとくくりにして良いのかどうか解らないけど、これまで聴いた経験から言うと、個性的な音色はとても魅力的なんだけど、管楽器の機能性やアンサンブルはいまひとつという印象を持っている。欧米のメジャーなオケと比較した場合には、やや聴き劣りするというのが正直なところだろう。しかし、このラハティ交響楽団は、北欧のオケ独特の音色感に機能性を兼ね備えた、とても優れたオーケストラだと思った。もちろん初めて聴くオケなのだが、きっと音楽監督ヴァンスカの力量におうところが多いんじゃないだろうか。

 プログラムの最初は交響曲第1番。ヴァンスカは、アゴーギクやデュナーミクを多用し、ダイナミックレンジは極めて大きくつかっていて、ピアニッシモはほとんど聞こえないくらいだし、テンポもかなり大きく変動する。音楽的にはかなり「あざとい」表現をする指揮者だ。にも関わらず、オケが乱れるようなところがない。第3楽章のフィナーレこそ、超絶的スピードで走ったので、弾きこなせていなかったような感じが残ったけど、ヴァンスカのタクトのもとで良く訓練されているのがはっきりと解る。クリヴィヌ=リヨン管やラトル=バーミンガム市響などと同様、個々の奏者で比較すればメジャーなオケとの差が出るのだろうけど、ラハティ響のアンサンブルは秀逸と言って良い。ただし交響曲第1番の表現には正直言って閉口した。とても好きな曲なんだけど、この日の演奏は音楽の横のつながりが途切れてしまって、安心して音楽に浸ることが出来ない。ところどころで目が覚めるように美しいフレーズが現れるんだけど・・・うーん、これが「最先端の解釈」なんだろうか???

 休憩後の交響曲第3番は、おそらく初めて聴く曲。したがって他の演奏との比較は出来ないけど、簡潔ながらとても綺麗な曲で、北欧の民族舞曲のようなフレーズが心地よい。ほとんど聞こえない寸前のpppのピチカートも音の密度はキープしているし、弦楽器の音色のすばらしさは特筆に値する。第1番と違って先入観が無かったためだろうか、この演奏には満足! 最後の「フィンランディア」も、音のパレットの豊かさがめざましい効果をあげていたし、今まで知らなかったオーケストラ=ラハティ響の力に舌を巻いた演奏会となった。ヴァンスカの解釈にはいささかの疑問符がつくものの、このオーケストラは一度は聴いておくべきオーケストラだろうと思う。