井上道義=新日本フィル

(文中の敬称は省略しています)

●1999/10/08 新日本フィル1999-2000年シーズンの幕開けとなる定期演奏会は、井上道義指揮の古典的なプログラムである。オーケストラ・ビルディングには、このような古典的な曲が必要とされているけど、必ずしも聴衆のウケが良い曲とは言えない上に、編成が小さくシンプルな曲が多いだけにごまかしが利かないのでボロが出やすい。音楽的には低迷している新日フィルにとっては、大きな試金石となる定期演奏会だろうと思う。

 正直言ってあまり期待しないで出かけた演奏会だったけど、その期待は良い意味で裏切られた。ステージ中央にこじんまりと編成されたオーケストラの弦楽器は変形8型に縮小され、井上のタクトの下、近年のNJPの中ではマレに見る高水準のアンサンブル。「魔笛」序曲では弦楽器が薄すぎるキライがあったけど、メインのハイドンでは光沢があってテンションが高い音と、機動性に富み、溌剌としたリズム感が素晴らしい。夏前の荒れた弦楽器がウソのようにまとまっているのにはオドロキである。ハイドンを聞いて良いと思ったのは久しぶりで、さすがカザルスホールでハイドン交響曲全曲演奏会を行ったオーケストラだと納得した。

 13歳のヴァイオリニスト、神尾真由子が登場したモーツァルトも悪くない演奏だったけど、ちょっと難点を挙げれば神尾のヴァイオリンがちょっと平板なこと。ソリストとしての素質を感じさせる音色は貴金属的な美しさと豊かな音量の持ち主なんだけど、音色に頼りすぎる傾向があるのだろうか、音楽の陰影感が乏しい。オケとのアンサンブルでも、神尾の音だけがちょっと上滑りしているような印象がある。その点、白尾の表現は練れていて、一日の長を感じさせる内容だ。とはいっても13歳でこれだけ弾きこなせるのはオドロキとしか言いようがなく、きっと数年後には素晴らしいヴァイオリニストになってステージに立っているんだろうと思う。

 今日のNJP定期は概ね満足。いま、NJPに必要なのは、古典的な曲できちんとアンサンブルを育ててくれる指揮者の存在なんだろうと思うけど、この演奏会はその意味でも方向性を示してくれたんじゃないだろうか。