東京都交響楽団 定期演奏会
若杉弘のR・シュトラウス

(文中の敬称は省略しています)

●1999/09/08 都響の定期が東京文化会館に帰ってきた。都響の音をこの大ホールで聴いたのは久しぶりだけど、やっぱり東京文化会館の音は東京でもトップクラスであることは間違いない。内装などは大きく変わった印象はないけれど、トイレなどはとても綺麗になったし、ホール内の椅子のシートもすべて張り替えられた。

 ただしこの日の都響側の不手際なのか、ホールのエントランスに並んだ入場者の導入にはかなり手間取った。NHKホールはもちろん、サントリーホールやオーチャード、東京芸術劇場など、どこの大ホールでも入り口のチケットもぎりは4人がふつうだと思うんだけど、この日の都響定期はわずかに2人だけ。上野駅から次々に流れてくる入場者はいつまでたっても捌けない。行列の最後尾は、ホールのエントランスをはみ出さんばかりなのである。曖昧な記憶だけど、以前のチケットもぎりは、3人はいたような気がする。もう少しスムーズに入場できるんじゃないかなぁ。

 屈指のプログラム・ビルダー・若杉弘らしいプログラミングの都響定期演奏会である。R・シュトラウスの全オペラ作品抜粋を2夜の定期演奏会で演奏してしまおうというのだからスゴイ。7時ジャストに始まったこの日のコンサートは、曲間のカーテンコールもメチャ短く抑えられていたんだけど、終演は午後9時半! 時間的にはぴったり予定通りではあるけれど、定期演奏会としては超盛りだくさんの内容である。さすがに消化不良の演奏会になるんじゃないかなぁ・・・と心配して行ったんだけど、内容的には概ね満足がいくものだった。

 何よりも良かったのがオーケストラ。あの独特の上昇線と下降線を描くR・シュトラウス・サウンドを支えているのは弦楽器だけど、硬質で光沢がある都響の弦楽器の音に良く似合う。管楽器の色気不足なんだけど、いつもの都響よりはいい感じ。若杉=都響で、こんないい音を聴いたのはホント久しぶりだ。ちょっと鳴らしすぎかなぁ・・・と思ったシーンも多かったけど、この日の満足度No,1はオーケストラであることは間違いない。

 歌手は緑川まり、天羽明恵、大倉由紀枝、菅有美子、福井敬、松浦健、大岩篤郎、大島幾雄、小鉄和弘と、そうそうたる顔ぶれ。これだけのソリストを集めておきながら一夜の演奏会で終わらせてしまうのはとんでもない贅沢である。でも、どの歌手も多かれ少なかれの問題点も露呈してしまったんじゃないだろうか。どの歌手もきちんと聴こえる声量を出すことには成功していたんだけど、表現力という点では練り込み不足が目立って、例えばツェルビネッタ(ナクソス島のアリアドネ)を歌った天羽明恵はコロラトゥーラ特有の転がすような技法が全く不完全だし、オクタヴィアン(菅)とゾフィー(天羽)は、三重唱〜二重唱の繊細な心理を表現するには声の張り上げすぎ。オケと同じ高さのステージなので、歌手にはつらい条件だけど、もう少し表現には気を配ってほしかった。その意味で満足できたのは、緑川まり、福井敬、大倉由紀枝といったところ。

 これだけの内容だと、多くの練習時間も要するしボロも出やすくなるけれど、十二分に楽しめる内容に仕上げたのは流石!である。2時間半の上演時間が、実際に時間よりも短く感じたし、予想を上回る水準だった。14日のBシリーズも行きたいんだけど、仕事の関係で微妙なのがザンネン!