サイトウ・キネン・フェスティバル松本
「ファウストの劫罰」松本城野外コンサート

(文中の敬称は省略しています)

松本城を背景にしたステージ

●1999/09/04 このホームページ恒例の「サイトウキネン・フェスティバル」今年最初の現地レポートは、予定外?の「ファウストの劫罰」の松本城野外コンサートこである。このコンサートは、入手困難のSKFのチケットを、安価で多くの人に聴いてもらおう・・・という趣旨で、このフェスティバル初めての試みである。テレビ朝日の「ニュース・ステーション」などでも紹介されたので、概要はご存じの方も多いはず。チケットは往復はがきで申し込み、抽選で当たった人が3,500円のエリア指定入場券を買える仕組みで、6,000枚を越えるチケットはかなりの5.7倍の抽選だった模様である。私は往復はがきで応募するのをすっかり忘れていたので、チケットは持っていなかったんだけど、「当日行けば何とかなるだろう・・・」という安易な気持ちで松本城に行ったら、ホントに何とかなってしまったのである。(もちろんダフ屋ではなく、個人売買である) 決して良い席ではなかったけど、往復はがき代をケチった罰として受け止めておこう(^_^;)

 松本城を背景に本丸公園に造られたステージはとても大がかりなもので、一回限りの公演ではもったいないと思わせるほど。「ファウストの劫罰」はリアルな演出が求めることが難しい演目ではあるけれど、野外公演という限界はあるのでステージいっぱいの紗幕にスライドを映写して舞台転換に見立てる。抽象的ながらスピーディな舞台転換が可能だ。また舞台にあわせて、松本城のライティングの色も変えられて、「ラコッティ行進曲」やラストシーンでは赤、その他のシーンでは白や青などの照明が使われる。紗幕の背後には東京オペラシンガーズの合唱団が控え、ステージ前には客席よりも高い位置にオーケストラ・ピットが設けられている。客席は本丸公園の芝生の上にパイプ椅子を並べたもの。数カ所に電光掲示式の字幕スーパーも設けられ、初めての野外コンサートで多くの観客を集めた割には、混乱もなくスムースに進行したと言っていいだろうと思う。

 問題は音響だけど、私はクラシック音楽の野外公演を聴いたのは、今回が初めて。はっきり言って、期待はしていかなかったんだけど、やっぱり音響的には期待はずれだった。私が座ったのは、C4ブロックで、ステージから最も遠く離れた席。正確な距離は解らないけれど、たぶんステージから100m位はありそう。これだけ離れると、スクリーンに映し出される口の動きと、音が若干のズレを感じる。もちろんマイクで収録した音にリバーブをかけてアンプで増幅、そしてスピーカーから流される音を聴くことになるんだけど、私の席だと絶対的な音圧が不足する。ホールと違って内壁の反射音がないために、音圧は距離の二乗に反比例して音が小さくなる。たぶん真ん中あたりの客席にターゲットを絞って音量を設定しているために、後ろの席の音量は絶対的に不足してしまったんだろうと思う。音質的には、さすがにクラシック音楽を再現すべく、それなりの神経をつかっていたように思う。その意味では思ったよりも良かったけれど、きちんとしたコンサートホールで聴くのと比較すべきではない。低音部はともかく、高音部はハイカットフィルターが入っているように聞こえるし、弦楽器はかなりガザガザで、SKO特有のハイ・テンションの音はぜんぜん伝わってこない。これは普段聴いているクラシックのコンサートというよりも、ひとつのイベントとして聴くべきものなのであろう。その限りにおいては、まぁまぁの内容だったと言っていいかもしれない。

 歌手は、本来の松本市文化会館で行われておいる歌手たちに、万一のキャンセルが起こった場合の控えの歌手たち。スピーカーから聞こえてくる声を云々しても無意味かもしれないけど、これだけの歌手を控えするというのはホントに凄いことだ。ほとんど不満を感じない内容である。東京オペラシンガーズは期待を裏切らない内容で、本公演がとっても楽しみになったけど、児童合唱はちょっと不安。オーケストラは、この音では善し悪しを云々できない。ラストシーンでメフィストフェレスが松本城天守閣から顔を出す演出もあって、視覚的には結構、おもしろかったけど、この松本城という舞台設定を十分に生かし切っていたかというと疑問は残る。

 チケットの発売当初は抜粋で計画されたけど、途中で全曲に計画変更された経緯から、7時半にスタートした公演が終わったのは、午後10時。休憩を含めて約2時間半の公演で、天候が心配されたけど、途中でチラホラと小雨が降っただけで、公演そのものに支障を与えることはなかった。ただしこの日の松本の夜は肌寒く、上着が欲しかったくらい。個人的には野外公演で2時間半は、ちょっと長すぎた。音楽的にも視覚的にも集中するのが難しく、このような座席条件では2時間半はシンドイ。翌日に、真ん中あたりに座った人から話を聞いたら「とても良かった」という」話だったんで、座席によるものかもしれないけど、どんなに良い席であっても、野外公演という条件がつく限りにおいては音楽的に満足するのは難しいだろうと思う。

※ 写真は、Nikon COOLPIX900で撮影したものです。