●1999/08/23-24 いよいよ本題のコンサートのお話。毎年、ひとつのテーマのもとにプログラムが組まれる音楽祭だが、今年のテーマは「古典と現代」(Music
from Classic to Today)である。まぁ、解釈の仕方によって、どーにでもプログラミングが可能なテーマである。8月17日から30日までのコンサート・プログラムを見ると、・・・そーとも思えるし、テーマにはあまりこだわっていないような気もするしぃ・・・。その中でも、私が聴いた23日のコンサートは、最もテーマに相応しかったものに違いない。「古典と現代 ヒンデミットとストラヴィンスキーを聴く」と題されたこの日のコンサートは、古典の軸にはモーツァルトを配し、現代の軸にはヒンデミット、武満、ストラヴィンスキーを対置した全5曲のプログラム。登場するプレイヤーもめちゃんこ多いので、表にしてみると結構壮観である。
楽器 | 奏者 | モーツァルト:フルート四重奏曲 第一番 |
武満徹:アントゥル=タン | モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第二番 |
ヒンデミット:5つの楽器のための3つの小品 | ストラヴィンスキー:ダンバートン・オークス協奏曲 |
Fl | アンドラーシュ・アドリアン | ● | ● | |||
Cl | カール・ライスター | ● | ||||
千葉理 | ● | |||||
Ob | トーマス・インデアミューレ | ● | ||||
Fg | 馬込勇 | ● | ||||
Tp | ハンス・ペーター・シュー | ● | ||||
Hr | ランス・ミヒャエル・ストランスキー | ● | ||||
守山光三 | ● | |||||
Vn | ウェルナー・ヒンク | ● | ● | ● | ||
サシコ・ガブリロフ | ● | ● | ||||
沼田園子 | ● | ● | ||||
大関博明 | ● | |||||
Va | セルジュ・コロー | ● | ● | ● | ● | |
百武由紀 | ● | |||||
ヘンケル登代子 | ● | |||||
Vc | クリストフ・ヘンケル | ● | ● | ● | ● | |
苅田雅治 | ● | |||||
Cb | 永島義男 | ● | ● | |||
小室昌広 | ● | |||||
Pf | 遠山慶子 | ● | ||||
岡田知子 | ● | |||||
指揮 | キンボー・イシイ=エトウ | ● |
誰でも知っているのがライスター(元BPO首席Cl)とヒンク(VPOコンマス)。その他の外国人奏者は私も知らなかった人ばかりなんだけど、経歴を見ると演奏歴は豊富で、現在は音楽大学で教職に就いている人が多い。ついでに言うと、カメラータ・トウキョウからCDを出している人が多い。なるほど、この音楽祭自体のマネジメントをカメラータ・トウキョウが行っているのである。さらに遠山慶子は、この音楽監督・遠山一行の配偶者。まぁ、だからといってどーのこーのというワケではないが、よく言えば「アット・ホーム」な音楽祭である。
さて、演奏内容。遠山一行氏はこの音楽祭が音楽の友社賞を受賞したときに「私どもの意図は、あくまでもアカデミーが中心で、フェスティヴァルのほうは、どちらかといえば副産物と考えています。」というコメントを出しているけれど、この日のフェスティバルを聴く限り、良くも悪くもこのコメントに代表される演奏だったのではないかと思う。室内楽で要求される精緻なアンサンブルは、如何に名演奏家が揃ったとしても一夜漬けで出来るモノではない。ましてやアカデミーで若手演奏家に教えるのが「中心」であれば、この演奏会のための練習は「副」とならざるを得ないだろう。もちろんそのような位置づけが音楽祭のポリシーとして確立しているのだろうから、リスナーが外部からとやかく言う筋合いではないかもしれないが、この日の演奏で聴けるアンサンブルは一流の常設演奏団体のモノと比較すると、ちょっと聴き劣りすると言わざるを得ない。
個々の奏者として音色として優れていても、それがアンサンブルとなった場合に音色が整えられていないとマイナス要因になる。最初のモーツァルトのフルート四重奏曲から、その問題点を感じてしまい、最後のストラヴィンスキーまでその問題点は解消されなかった。臨時編成のアンサンブルとしては、良くやっているという評価もできるのかもしれないけど、それはあくまでも好意的な解釈。
この演奏を聞いてしまったせいだろうか、翌日の「パノハ弦楽四重奏団とその仲間たち」は常設アンサンブルの素晴らしいアンサンブルとして聴くことができた。
初めて聴くカルテットだったけど、これは良いアンサンブルだ。筆致の細いしなやかな線を描く4つの弦楽器、その4つのパートの音色が整えられていて、パートを引き継いでもとても自然なのである。チェコ・フィルに代表されるように、チェコは優秀な弦楽器走者が多いといわれているけど、パノハSQの音楽的純度の高さはVery
Good! セーヴされた表現の中に織り込まれた憂いを帯びた音色も、他のカルテットではなかなか聴くことのできない特徴で、この音で「わが生涯より」なんかを聴かされたらたまらない。私はこの1曲だけで満足してしまった。聴衆の数は、前日のほうがずーっと多かったけど、音楽的内容ではパノハのほうがずーっと上。はちょっと皮肉な感じだけど、常設アンサンブルの優位性を示してしまった演奏会でもある。
前にも書いたように、草津の音楽祭はあくまでアカデミー優位であるとすれば、そのアカデミーの中から優秀な奏者が育つことが一番の目的なんだろうと思う。この2日間の演奏を聞いた限りにおいては臨時編成のデメリットが目立ってしまったけど、東日本随一の温泉&避暑地、恵まれた環境の中での音楽などを考え合わせれば、また行ってみたい音楽祭である。草津から東京に帰ったら、蒸し暑さが身にこたえた。