ベルティーニのマーラー5番

(文中の敬称は省略しています)

●1999/06/11 早々に売り切れになったベルティーニ=都響のサントリーホール定期演奏会の曲目は、ベルティーニが最も得意とするマーラー、しかも最も人気が高い「交響曲第5番」である。オマケに矢部達哉がモーツァルトのコンチェルトを弾くとなれば、人気はさらにアップ! 当日券売場にはキャンセル待ちの列も出来ていた。

 昨年の定期でブラームスのコンチェルトを弾いて練習不足としか思えない駄演を聴かせてくれた矢部達哉なので、今回は期待していなかったんだけど、今日の演奏は大きく様変わり。まず音色と音量が、以前に聴いた矢部とは全然違う。これまでの矢部は渋めで控えめな音量で、室内楽奏者を思わせる繊細な演奏が持ち味だったけど、今日の矢部は、艶やかな光沢を光らせて、音量も豊かなのである。もしかしたら楽器を変えたのかもしれないけれど、音色と音量に関してはソリストとして十二分にやっていけるものだろう。テクニック的にも実に安定していて、不安を感じさせない。ハッタリではなく誠実な音楽を追究する姿勢も好ましいけど、残念なことに音楽は一本調子。音が美しいのでそれなりに聴けるんだけど、それ以上の内容が乏しいのだ。ベルティーニ=都響のサポートは、引き締まった音で好サポート。

 そしてメインのマーラーの5番。しかし内容は、平均以上でも以下でもない内容。はっきり言って、ベルティーニ=都響というネーム・バリューから考えると、「期待はずれ」と言っていいんじゃないだろうか。まず、音楽の縦の線がずれがち。ちょこっとしたミスなんだけど、フライング気味のミスが目立つ。さらに、音のテンションが低く、マーラーに求められがちな死生観が表出しない。アンサンブルが粗雑で、室内学的な透明感がない。インバル=都響が聴かせてくれたマーラー5番の超絶的名演奏のレベルから考えると、明らかに数ランクはダウンしている。ベルティーニの解釈はごくごく真っ当なものなのだけれど、なんでこのような差が出来てしまうのか? 

 終演後は盛大なブラボーの声が飛んでいたけれど、ワタシ的にはドッチラケ。拍手もそこそこに、ホールから早々に退散してしまった。このところの都響は、良いときと悪いときがはっきりしているなぁ。