クリヴィヌ=フランス国立リヨン管弦楽団

(文中の敬称は省略しています)

●1999/05/24&25 クリヴィヌという指揮者はあまり知名度は高くないけれど、たしか8〜9年くらい前に都響に客演して、モーツァルトのシンフォニーで素晴らしい演奏を披露してくれたのが印象に残っている。その後、彼がシェフをつとめるリヨン管弦楽団も聴く機会も得て、かなり個性的な解釈で「幻想交響曲」を聴かせてくれた。このときの新聞や音楽雑誌を飾った評論家達の評価は残念ながら低いものだったけれど、私はこの指揮者とこのオーケストラのコンビが続くのであれば、絶対にフランスを代表し得るオーケストラになると思った。クリヴィヌのオーケストラ・トレーナーとしての実力は、それほどまでに高いと思ったのである。クリヴィヌとリヨンとの関係は、2000年9月をもってピリオドが打たれるらしいけれど、今回の来日公演はこのコンビが創りあげてきたアンサンブルの成果を見せるコンサートとなった。

24日のプログラム

25日のプログラム

 今回も例によって一番安いPブロックの席だったので、音色的な善し悪しは分かりにくいところ。だが、いわゆるフランス的なニュアンスは希薄で、どちらかというと近代的な機能性が優先されている感じがする。音色的なものを期待していった人には不満だったかもしれないけれど、このオーケストラの最大の美点は「反応の良さ」だろうと思う。Pブロックから見ていると、クリヴィヌの細かい指示がタクトを通して見えるんだけど、それに対するオケの反応の鋭さは、この一年くらいに聴いたどのオケよりもスルドイ。ほとんど瞬間的にタクトに反応する様子は、見ているだけでもカイカンだ。そういえば往年の「インバル=フランクフルト放送響」を聴いたときも同じような印象を持ったものだ。機能的には圧倒的にフランクフルトの方が優れているんだけど、このリヨンのオーケストラもクリヴィヌによって良く訓練されているのが伺える。

 しかし「イタリアのハロルド」やピアノ協奏曲系の曲は、いくらソリストが良くてもPブロックで楽しむのは難しい。特にピアノの音は間接音しか聞こえないため、ぜんぜんダメ。しかしソリストの名誉のために言っておくと、いずれも大熱演で、会場の反応もとても好意的だった。こーゆーときにはPブロックに座ったことが恨めしい。

 個人的に楽しめたのはラヴェルの管弦楽曲とサン=サーンスのオルガン交響曲。ラヴェルは楽想的にオーケストラの反応が良くないとダメなんだけど、この指揮者とオケはその点では抜群である。オケは所々でコケるんだけど、音楽の縦横がピタリとあっているし、指揮者の意図がオケを貫徹しているために有機的な一体感を感じる。オルガン交響曲も、背後から聞こえるオルガンが体を揺さぶるオーディオ・ライクな楽しみも味わえるし、クリヴィヌの楽章の表情を強調した解釈も面白かった。かなりゆっくりしたテンポで始まって、とてもロマンチックでコラールが美しい。しかし最終楽章になるとがぜんテンポがあがって、最後のコーダには怒濤の快進撃。このような解釈が可能なのも、リヨン管がクリヴィヌの手兵ならではだろう。

 クリヴィヌがリヨン管から離れて、このオケが水準が維持出来るかかどうか・・・、はっきり言って心配だけど、現時点では最も熟成されたコンビであろうことは間違いない。この9月にはN響にも登場するので、クリヴィヌを聴いたことのない人は是非ともコンサート会場に足を運んでみてほしい。