ホームページ開設3周年!
そして、カザルスホールの自主公演中止問題について

(文中の敬称は省略しています)

●1999/05/07 ライヴ系リスナーのホームページとして出発して早3年が経過しました。先月にはアクセスカウンターが10万ヒットを記録し、いろんな出版物にも定番ホームページとして紹介されることも多くなってきたけど、こちらの更新頻度はいまひとつ停滞気味・・・。今年に入ってからまだ16回目の更新だから、大体、週一回の更新ペース。これは「最盛期」のほぼ半分である。仕事の関係で、今年の1〜3月はコンサートに行く回数も激減したけど、この4月以降はなんとかいつものペースに戻れるかもしれない。GWは、このホームページで使っているCGIを変更しようと思って、深夜にゴソゴソと試みを企てたのだけど中断のやむなきに至ってしまった。せっかくのまとまった休みだったのに、ホームページ上には目に見える変化は出せなかったのが残念。

 さて今年の1月4日の更新で、不況がクラシック音楽界に与える影響についての懸念を書いたけど、その懸念が本当になりはじめた。すでにご承知の人も多いと思うけど、カザルスホールの自主公演中止(2000年度以降)の問題は、毎日新聞、朝日新聞などで報道され、大きな波紋を広げている。運営母体である主婦の友社の経営がきわめて厳しい状況になっていることに起因しているのだが、これまで先進的ですばらしい企画を提供することによってリスナーの熱い支持を集めてきたカザルスホールが、その生命線ともいうべき自主公演をやめてしまうというのだ。

 まだまだ室内楽ファンは決して多いとは言えないので、カザルスホールの自主公演中止が、何故、このような波紋を呼んでいるのか、ピンとこない人も多いかもしれない。私もお茶の水にあるカザルスホールという建物が無くなってしまうだけなのであれば、このように問題にはしなかったかもしれない。しかしカザルスホールのカザルスホールたる所以は、きわめて質の高い公演をカザルスホールという「楽器」を使って提供し続けてきたことにある。レジデント・カルテットとしてハレーSQとゼフィルスSQの定期演奏会を開催し、堀米ゆず子と今井信子を核としたカザルスホールSQも組織した。新日本フィルを使って実現したハイドンの交響曲全曲演奏会は今でも語り草になっているし、山下和仁、豊島泰嗣&清水和音、吉野直子など若手演奏家を起用した連続リサイタルシリーズ、カザルス忌前後に行っているチェロの連続リサイタル、アマチュア演奏家の絶大な支持を集めたACF、・・・と、その好企画は枚挙に暇がない。さらに当時は無名であった海外の名演奏家を紹介したことも忘れてはならない。カルミナSQやフェルメールSQ、ヴァイオリニストのパメラ・フランクなどは、いずれも素晴らしい音楽家だった。東京・お茶の水の小さなホールにすぎない「カザルスホール」が、これほどの名演奏家を発掘し、日本の音楽ファンに紹介し得たのも、カザルスホールの設立の優秀なスタッフがいたからに他ならない。またカザルスホールの企画を地方のホールに「輸出」し、各地の音楽ホールの発展に大きな影響を与えてきたが、それもカザルスホールの情熱的なスタッフに負うところが大きい。

 決して大げさなことを言うつもりはないのだが、カザルスホールは、・・・その音楽ホールというハード面ではなく、優れたソフトウエアを創りあげてきた「カザルスホール」は、日本のクラシック音楽文化が21世紀に引き継ぐべき数少ない財産の一つだと思っている。私自身、音楽の聴き方の多くの部分は、カザルスホールに学んだといって間違いない。私は楽器は全然やらないのだが、カザルスホールで聴いた室内楽は、音楽にとってアンサンブルがいかに大切かを教えてくれた。一人でも手を抜けばアンサンブルが崩壊してしまう室内楽は、オーケストラやオペラとは比較にならないほど、演奏家に集中力を要求する。逆に言えば、室内楽的な高密度な演奏を、オケやオペラにまで拡大すれば、それは素晴らしい演奏を生み出すのである。ベルリン・フィルやウィーン・フィルなどでは、団員に室内楽演奏を奨励していると聞くが、室内楽は音楽(アンサンブル)の基本となることの証左であろう。そして、リスナーにとっても室内楽は、音楽の聴き方の基本となると思っている。室内楽はリスナーの中でもオタク度が強い分野というイメージ(^_^;)を持たれがちだけど、私はオーケストラが偏重されている日本の音楽界の方がおかしいんじゃないかと思っている。

 カザルスホールから会員宛に4月19日付で届いた手紙によると、2000年4月以降は年間25公演ほどを音楽事務所にホールを提供し、その公演全体のディレクションを元カザルスホール総合プロデューサー萩元晴彦氏に依頼するとのこと。解散の方向だったカザルスホール倶楽部は、とりあえず2000年3月までは存続となったが、その後は不透明である。このあたりの事情はCasalsHall-2000problemのホームページが詳しいので、興味のある方は是非、のぞいて見てほしい。カザルスホールは今後、どのようになっていくのか・・・、それは室内楽ファンだけでなく、音楽ファンすべてに課せられた試金石ではないだろうか。