フルネ=都響のラヴェル

(文中の敬称は省略しています)

●1999/03/27 都響芸術劇場シリーズの今年度第一回目を飾るのは、フランスの名指揮者ジャン・フルネがタクトを取るラヴェルのプログラムである。都響に登場する指揮者としては最も素晴らしい指揮者であるとともに、日本に定期的に客演している指揮者の中でも最も好きな指揮者の一人である。

 スペイン狂詩曲では、いま一つ音の分離が悪く、色彩感も乏しい出だしだったが、音楽が進むにつれてフルネの持ち味が出始める。フルネのフランス音楽は、ド派手な極彩色でもないし、オケの機能性に任せて力でおしまくるようなことはない。端正で上品、かつ適度な色彩感に溢れている。その美点が端的に現れたのが「マ・メール・ロア」。童話の世界を音楽で表現したラヴェルの小品集の美しさは、まさにフルネの独壇場と言って良い。まるで、細い筆致によって描かれた繊細な水彩画のよう。

 「左手のためのピアノ協奏曲」は、私自身、あまり好きな曲ではないのでコメントはパスするけど、メインの「ボレロ」はいわゆる名曲コンサートの水準を超える名演奏だった。演奏時間は概ね15分丁度の標準的なスピード。これ以上小さな音では演奏できないんじゃないかと思わせるほどのピアニッシモで始まったボレロだったが、残念ながらフルートなどの木管はちょっと音が大きすぎてバランスが悪い出だし。しかし音楽がクレッシェンドして行くと、そのような不満も解消してしまう。木管や金管の機能性では決して優れたオケではないが、都響のテンションはかなり高いので気にならないし、ボレロの中では最も難しいとされるトロンボーンもきちんとまとめあげて破綻らしい破綻は全くない。特筆すべきは、フルネの紡ぎ出す音楽らしく、クレッシェンドの頂点に至るまで透明感を失わなかったこと。分厚くジャンジャン鳴らすだけのボレロなら、この先、いくらでも聴けるのだろうけど、こーゆーボレロはふつうの名曲コンサートではなかなか聴くことの出来ない演奏だろうと思う。

 フルネは今月の都響で、フォーレの「レクイエム」やブラームスなどのプログラムを振る。さらに来月は日本フィルに客演し、フランス音楽を中心としたプログラムを振る予定である。都響との相性の良さはもはや言う必要もないと思うけど、日本フィルのシルキーな弦楽器とも相性が良く、都響と日フィルとの聴き比べも一つの楽しみになるんじゃないだろうか。