新国立劇場バレエ「ドン・キホーテ」

(文中の敬称は省略しています)

●1999/03/20 新国立劇場のバレエを見るのはこれで3回目である。最初のオープニング公演「眠りの森の美女」はどうみても学芸会レベル、前途多難な船出だったので、しばらく新国立劇場バレエとはしばらく離れていたんだけど、昨年秋の「ジゼル」では大幅に進歩したところを見せてくれた。まだまだ進歩の余地が大きいとはいえ、単に機械的に踊ると言うことから、役柄を表現しようと言うレベルに押し上げていて、見て充分に楽しめるレベルに達したのは率直に言って嬉しかった。今回の「ドン・キホーテ」は、ロイヤル・バレエでもプリンシパルをつとめる吉田都が登場するため、この日(土曜日)のチケットは売りきれとなったようだ。

 舞台は、プティパ原振付にボリショイの新芸術監督アレクセイ・ファジェーチェフが改定振付を行ったオーソドックスなもの。舞台装置はチープで重厚感に欠けるのは残念。レパートリーシステムを目指すのなら、もう少し良い舞台装置を作ってほしい気がするけれど、上演内容はそれを充分に補えるものだったと思う。バレエは主役二人の比重が極めて高い舞台芸術だと思うけど、この日の見所は難と言っても吉田都&ウヴァーロフ。技巧的にも演技的にもレベルの高い内容を見せてくれた。吉田都は、決してスタイルに恵まれたバレリーナとは言えないと思うけれど、キビキビとした動きの機敏さは観ていて気持ち良いし、お転婆なキトリを演じるにはキャラクターがぴったり。第三幕の結婚式で32回転も、これまで見たこともないような超高速でキメてくれたし、「さすがロイヤルのプリンシパル!」と納得。相手役のバジルはボリショイのプリンシパルのウヴァーロフ。長身で手足が長く、舞台栄えのするダンサーである。足先にまで神経が行き届いたジャンプや、高いリフトは見ごたえ充分。

 この主役二人以外のダンサーは、大きく水準が落ち込んでしまうのが残念だったが、キャラクター・ダンサーをはじめとする演技は、以前の「眠れる森の美女」とは雲泥の差で、劇場付バレエ団としての一体感は着実に進歩をしているように感じた。

 演奏は、バレエでは定評があるフェドトフが振り、オケは東京交響楽団。最初はかなり荒い演奏だったけど、幕が進むにつれて音色が冴えてきた。他のバレエ団の上演だと音楽は軽視されがちなので東響クラスのオケでバレエ音楽を聴くことが出来ないのだが、この日のピットからはミンクスの南欧的な音楽が溌剌と響いてきた。是非ともバレエでも、この日のように充実した音楽を聴きたいものである。この日のレベルの上演ならば、また新国立劇場に足を運んでみたいと思う。