沼尻竜典=都響

(文中の敬称は省略しています)

●1999/02/24 ほぼ1ヶ月ぶりの更新、このままホームページは消滅か!、と思った方も多かったかと思うけど、これには立派(?)な事情があってのこと。理由は「自宅の引越し」である。前の家からは歩いて10分くらいのところなんだけど、今度は建物の最上階にあたる13階で実に見晴らしが良い。晴れた日の朝には富士山も一望できるし、夜景もなかなか綺麗なところ。これまでよりも一部屋分広くなって、なかなか快適な住環境となった。これで3回目の引越しになるんだけど、引越しを重ねるたびに荷物は増えて、それに要する労力は相当のものである。時代錯誤的に巨大なステレオ、CDも800枚あるためダンボール中箱が5つも必要なのだ。コンピュータ関連のダンボール箱も多く、4人家族並みの三トン車が必要な始末である。メチャメチャ大変だった荷造りと引越しだったけど、10日ほど経った今、なんとか室内は落ち着いてきた。そんなこんなでホームページの久々の更新となったワケである。

 1月は都響、NJP、東フィルとも定期演奏会はすべてキャンセルしてしまったけど、今日は久しぶりの都響の定期。タクトを取るのは都響定期初登場となる新鋭、沼尻竜典である。

 まずディティユの曲は私には理解不能なのでコメントはパス。どこが良いのかさっぱりわからない曲なので、話はいきなりブルッフのコンチェルトに移るけど、これはとても良い演奏だった。ソリストのカトリーン・ショルツは、1969年、旧東ドイツの生まれと言うから今年で30歳になる若手のヴァイオリニストである。ちょっと小柄な体には似合わず、ヴァイオリンの音量は充分。音色も貴金属的な光沢ではなく、ひとの温もりのような温度感のある有機的な輝きがある。したがって、音楽を通してより豊かな感情が聴き手に伝わってくる。テクニックにも充分なモノを持っているけれど、決してアクロバット的に押し捲ることはなく、きわめて誠実な音楽作りをするのが好ましい。どんなに速いパッセージでも一つひとつの音をきちんと弾こうとする姿勢の中に、ブルッフの音楽をを誠実に表現しようとする姿勢が伝わってくるし、さらに、その上にショルツ自身の表現がきちんと盛り込まれている。ブルッフのコンチェルトは、あまり聴く機会がないけれど、この演奏は同曲の演奏の中ではもちろんベストと言って良い内容だったし、会場の拍手もそれを物語っていた。(アンコールは、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より)

 休憩後は、モーツァルトの「ジュピター」。ブルッフのコンチェルトでも伝わってきたけれど、オーケストラをまとめあげる沼尻の実力はなかなかのもの。派手なパフォーマンスは期待する向きにはお勧めできない指揮者だけど、端正で破綻のない管弦楽にまとめあげる力は評価されてしかるべきだろうと思う。この美点はモーツァルトでも生かされていて、12型のコンパクトなオケから引き締まった「ジュピター」が生み出されて行く。モーツァルトに求められる各パートの分離感や透明感は今一つだけど、「ジュピター」ならこのように筋肉質なアプローチでも充分に聴き応えのある演奏に仕上がる。フルネやペーター・マークのようなレベルのモーツァルトを沼尻に望むことは出来ないだろうけれど、将来に期待しても決して期待し過ぎではないだろうと思う。