キャスリーン・バトル

(文中の敬称は省略しています)

●98/12/22 バトルの声を聴くのは何年ぶりだろう。家でガサガサ探してみたら90年と92年のリサイタル、93年のMET来日公演(愛の妙薬)のプログラムが出てきた。(その他でも小澤=NJPで「復活」を聴いているが・・・)当時はキャスリーン・バトルの人気は絶頂で、チケットを手に入れるのは大変だった。その後、バトルは自己中心的な言動が原因でMETを追放されてオペラの舞台から姿を消し、日本にくる回数も減ったように思う。したがってバトルを聴くのは5年振り。人気は低下傾向にもかかわらず、チケットの価格も最低席は9,000円とメチャ高いので、会場となった横浜みなとみらいホールも約8割程度の入りで空席が目立つ。

 やっぱりバトルはバトルである。あまり好ましくないところから書くと、バトル流の歌いまわしが強すぎて、チト癖が強すぎはぬぐいきれない。こんな調子でオペラを歌われたら、アンサンブルがぐちゃぐちゃになるのは目に見えている。ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語とさまざまな言語の歌でも、イントネーションの差がほとんど感じられない。それでもバトルの魅力は、その欠点を上回る。わずかに陰りは見えているけど、適度に脂がのっていて肉感があるソプラノはとても有機的で、声の力だけをもってして人の心を動かす力を持っている。ピアニッシモからフォルテまでのきっちりとコントロールされてえいるし、アカペラでも音程とリズム感の確かだ。ゆえに安心して音楽に浸ることが出来る。

 前半はややセーブ気味だったけど、後半はさすがに盛り上げる術を知っている。後半のドニゼッティではパワー全開! フォーレではしっとりと聴かせた後で、黒人霊歌ではジャズ調の雰囲気の中に深い祈りを刻み込む。「アレルヤ」ではコロラトゥーラの技法でやや難が合ったようだけど、本番はここから。アンコールは45分で全7曲を繰り広げた。このアンコールは、たぶん最初から予定されていたんだろうけど、なぜか得した気分になるのは不思議だ。

 やっぱりバトルはバトルである。エンターティナーとしての実力は高いし、声の魅力も充分である。彼女の声をオペラで聴くのは難しいかもしれないが、良くも悪くも自分のためのステージでないと魅力は発揮されにくいので、彼女はやっぱりリサイタル向きの歌手だろう。クリスマスの一夜を演出として、バトルのリサイタルは十二分に価値があるものだった。