ベルティーニ=東京都交響楽団

(文中の敬称は省略しています)

●98/11/12 都響の11月の定期演奏会は、新音楽監督のガリー・ベルティーニ。人気のソリストに、名曲プログラムで、会場はほぼ満員になった。

 矢部のブラームスを聴くのは94年に続いて2回目。どの程度進歩しているか楽しみだったけど、失望に終わったコンチェルトだった。まず矢部の最大の問題点である音量だが、確かに以前と比べて骨太にはなっている。しかし絶対的な音量が不足しているのは明らかで、オケに埋もれて聞こえなくなるシーンも多かった。さらに第1楽章は独奏ヴァイオリンのピッチがあっていないのか、音程がズレまくり。ピッチは1楽章が終わってから修正してなんとか持ち直したけど、今度は独奏のツッコミが早すぎて、オケと噛み合わないところも多く、全体に練り込み不足がめだった演奏となってしまった。以前の演奏と比較すると、緊張感の高さ、音楽表現の誠実さと好ましさは、4年前のほうがはるかに上回る。私は矢部の音楽性そのものを否定する気は全く無いけど、やっぱり矢部は室内楽向きの演奏家じゃないだろうか。

 後半は、「幻想交響曲」。ベルティーニのアプローチは、どちらかと言うと南欧的な明るい「幻想交響曲」。この曲のドラマ性を強調するには、陰と陽のコントラストを強調する必要があると思うんだけど、ベルティーニの場合は「陰」の部分がそっくり抜け落ちてしまっている。まぁ。これはこれで一つの表現かもしれないけど、私は好きではない。オケはそこそこの内容で聴かせてくれたけど、正直言って聴くべきものに乏しい演奏会になってしまったのが残念だ。