新日本フィル・トリフォニー定期Bシリーズ
ヨーヨー・マのシューマン・チェロ協奏曲

(文中の敬称は省略しています)

●98/10/22 NJPトリフォニー定期、Bシリーズの定期会員券が売り切れになった原因の多くは、この日の定期演奏会にあったんじゃないだろうか。指揮者は小澤征爾、ソリストにはヨーヨー・マが登場すると言う、NJP恒例の超豪華キャストである。プログラムは前半にマーラーの「大地の歌」、後半にシューマンのチェロ・コンチェルト、どう考えてもバランスが超悪い曲順だけど、ソリストがヨーヨー・マだったら妙に納得できてしまう辺りが面白い。

 このところ睡眠不足と疲労が重なって前半のプログラムは爆睡気味。今回の「大地の歌」も例外ではなかったのだが、意識があって(^_^;)聴いていた範囲では「枯淡の域」や、どこかあきらめのムードが漂う「世紀末的な雰囲気」はどこかに消し飛んでしまって、小澤らしいキリリとした雰囲気のもとに躍動感がプラスされた演奏となった。これはこれで一つのアプローチだと思うけど、私個人の好みとは反対の指向性だ。そのうえオーケストラの演奏に余裕がなく、限界が見えてしまっている。マーラーの曲の中では4番と「大地」は、オケの機能性を目いっぱいに使ったテンションの高い演奏をしてしまうと、曲の雰囲気が伝わってこないような気がする。福井敬の歌は、声量も十分でよく聞こえてきたけど、これも歌いまわしに柔らかさがなく曲の雰囲気にそぐわない。永井和子は、特定の音域に偏る傾向があるけど、美声では破綻がない。

 シューマンのコンチェルトは、「チェロ協奏曲の中で最も面白くない曲」に分類してかまわないと思うのだが、そんな曲でもここまで聴かせてくれるのか! と思わせる演奏で、さすがヨーヨー・マと感心してしまう。どんなに速いパッセージでも絶対にゆとりは失わないし、音楽の流れが中断することがない。シューマンが、ここまで超絶技巧のチェリストを想定して曲を作ったとは到底思えないけど、ヨーヨー・マが演奏するとまさに彼のために曲がかかれたような錯覚に陥る。合わせモノが得意な小澤のサポートとも呼吸はぴったり。ヨーヨー・マは現代最高のチェリストであることを再確認した演奏会となった。