新日本フィル・トリフォニー定期Aシリーズ
小澤の「英雄の生涯」

(文中の敬称は省略しています)

●98/10/18 ホントはシルヴィア・マクネアがR・シュトラウス「4つの最後の歌」を歌うはずだったんだけど、家族の病気のために急遽変更となった前半のプログラム。結局はナタリー・シュトゥッツマンがマーラーの「亡き子を偲ぶ歌」を歌うことになった。オマケにコンマスを勤めるはずだったケイニンが指の怪我のため、「英雄の生涯」の独奏はアシスタント・コンマスの崔文洙(ちぇ・むんす)が独奏を勤めることに。トラブルが重なった演奏会である。

 まず「亡き子を偲ぶ歌」。私は、どちらかというとこちらがメインの曲目のような気がするんだけど、やっぱりナタリー・シュトゥッツマンは聴きモノだった。誇張した表現はどこにもない。色彩感もモノトーンに近いけど、その中に織り込まれていく感情の豊かさは、いや「豊か」と言うよりも「深い」と言ったほうが適切かもしれない。彼女の声量に合わせて、オケも音量を押さえてデリケートに。しかしところどころで小澤らしい強引なところが見うけられたのが残念だったけど、「亡き子を偲ぶ歌」の雰囲気は十分に伝わってきた。

 後半の「英雄の生涯」は、ううむ(-_-;)な内容。小澤の強引なドライブが目立って、オーケストラがついて行けていない感じ。小澤のタクトにしては珍しくアインザッツの乱れも目立ったし、オーケストラ全体の見通しが悪く、フォルテシモでは音が飽和してしまっている。R・シュトラウスは大規模な管弦楽だけど、この上なく室内楽的な演奏が求められる。「英雄の生涯」だって例外じゃない。もっとピアニッシモを大事にした演奏をしてほしいのだが。