東京都交響楽団定期演奏会Aシリーズ
マリナーの「モーツァルト」

(文中の敬称は省略しています)

●98/10/15 マリナーと言うと「モーツァルト」というイメージが強い。フィリップスに録音した一連の録音はモーツァルトのスタンダードとして親しまれているし、映画「アマデウス」でも音楽を担当したのは有名な話だ。そのマリナーが都響の定期でオール・モーツァルト・プログラムを振るということで、東京芸術劇場はほぼ満員となった。

 前にも書いたけど、モーツァルトは本当に難しい作曲家だ。譜面は決して難しくないし、音にするだけなら現代の演奏者なら朝飯前だろうと思う。しかし、演奏を人に聴かせて、納得させるのに、これほど難しい作曲家が他にいるだろうか。私なら並みの指揮者が振ったモーツァルトなら、間違いなく爆睡する。今日のマリナーを聴いて、(私は仕事の疲れから25番では爆睡してしまったけど)、モーツァルトを聴かせて納得させられる数少ない指揮者の一人だろうと思った。

 オケの配置は、モーツァルトの交響曲では標準的な12型で、1st-2nd-Vc(Db)-Vlaというモダンなもの。東京芸術劇場のような大きな容積のホールでも、都響の弦なら十分な音圧で聞こえてくる。先日のメンデルスゾーン(16型)よりも、こちらのほうが好ましい。38番は、モーツァルトとしては比較的厚めのオーケストレーションの交響曲だと思うけど、マリナーはややスピーディな展開で、きりりと引き締まったモーツァルトを、「自然」に聴かせてくれる。そして定期演奏会としては異例のアンコールに「フィガロの結婚」序曲を演奏。おやおや・・・というところもあったけど、歯切れが良くスピーディで、躍動感溢れる演奏に脱帽! このままオペラの幕を開けてほしいと思った人も多かっただろう。

 ヴァイオリン協奏曲は、オケの編成をさらに絞ってなんと8型! さすがにここまで弦楽器を減らすと、オケは薄すぎる感じはするが、独奏を浮き立たせるための工夫だろう。竹澤恭子のヴァイオリンは、彼女らしい宝石のような硬質の輝きを感じさせるが、音色の美しさに頼りすぎる気がする。音そのものは確かに美しいのだが、音色のパレットは決して豊かではないし、それだけでは飽きられるんじゃないだろうか。全体的にテンポが作為的で、第2楽章のアダージョなんかはちょっと遅すぎる。こちらは私の好みの演奏ではなかった。