ビシュコフ=ケルン放送交響楽団

(文中の敬称は省略しています)

●98/09/30 横浜(桜木町)に「みなとみらいホール」がオープンして初めて出かけた演奏会が、ビシュコフ指揮ケルン放送交響楽団。ホールの詳細な印象は別の機会に譲るけど、音響だけは演奏会の感想と直結するだけに避けては通れない問題である。

 ホールの形状は、大阪のシンフォニーホールに近いアリーナ方の座席配置で全部で2020席の大ホール。私が座ったのは1階25列目付近だが、意外と響きが薄いホールである。残響音は少なく、ステージ上の音が飛んでこない感じだ。1階席はどのホールでも響きが薄くなる傾向にあるので、みなとみらいホールだけの問題点ではないかもしれないけど、この日のホールの音響の印象は決して良いものではなかった。

 ケルン放送響は、ベルティーニの時代のマーラー・チクルスをはじめ全部で10回以上は聴いている、海外のオーケストラの中では最もたくさんのステージに接してきたオーケストラである。とは言っても、継続して聴きつづけている訳でもないし、放送響という性格から際立った個性を持っているわけではない。どちらかというと機能性を優先したマルチ・タイプのオーケストラだろうと思う。このようなオケの場合は、指揮者の良し悪しがそのまま反映する場合が多い。ビシュコフ=ケルンRSOは如何に?

 まず樫本大進がソリストをつとめたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲から。樫本は若手の男性ヴァイオリニストとしてはほとんど「唯一」と言って良い存在だが、堅実なテクニック、表現に誇張がなく音楽そのものに語らせる姿勢は、将来性を感じさせる。ただし、ホールのせいだろうか、音には艶が不足して音色のパレットが少ないのが欠点、残念ながらもどかしさを感じて、演奏そのものを楽しむことは出来なかった。アンコールにはサラサーテの「パガニーニの主題による変奏曲」、途中で弦を切り、コンミスの四方恭子のヴァイオリンを借りる一幕もあったが見事に弾ききったのが印象的。

 休憩後はマーラーの第5交響曲。これが非常に弛緩した演奏で、実際以上に演奏時間が長く感じられた。出だしからテンポが異様に遅く、後足を引きずるような感じで、音楽が前に進んでいかない。オーケストラ自体の機能性はベルティーニの時代から大きく変わっていないようだけど、指揮者は残念ながら悪い方向に変わってしまったようだ。マーラーは、やっぱり引き絞った弓のような緊張感が感じられないと、その死生感が音楽に表出してこない。その意味では、この第5交響曲の演奏は、マーラーにあって非なるもの。とても退屈だったと言わざるを得ない。

 アンコールは、ブラームスのハンガリー舞曲第1番と、ワーグナー「ローエングリン」第3幕への前奏曲。ローエングリンの開放的な音を聴いて、やっとケルン放送響らしい音が聴けたと思った次第である。