東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会
井上道義のモーツァルト

(文中の敬称は省略しています)

●98/09/18 このところ東京での活動が目立つ井上道義が、東フィル定期に登場。井上は来年のBunkamuraオペラ劇場でプッチーニの「トゥーランドット」を振ること(オケはもちろん東フィル)が決まっており、井上道義と東フィルの関係も濃いものになりそうだ。

 まず演奏会用アリアを歌ったブリリョーワから。彼女の声は1989年のボリショイ・オペラ来日時のR・コルサコフ「金鶏」の時にはじめて聞いた。そのときのシェマハの女王では美しい容姿と清涼感ある声が評論家筋で激賞されたけど、歌唱力では今一つという印象だった。ボリショイの来日時は学生だった彼女は、現在、ライン・ドイツ・オペラで歌っているとのことだけど、今日、改めて聴いてみた印象ではあまり進歩していないような気がする。

 ブリリョーワは、もともと声量で押しまくる歌手ではないし、超絶技巧を誇る歌手でもない。「情け深い星々よ〜」では、まだ十分に声が出ていなかった上に、鈴を転がすようなコロラトゥーラの技巧は未熟でたどたどしい。2曲目「できるならあなた様に〜」で、ようやく声が出始めて、持ち前の高音と清涼感が現れはじめた。休憩を挟んだ3曲目「私は求めはしません〜」で、ようやく本調子といった感じで、ファルセットに至る高い音までまずまずの安定感で聴かせてくれた。けれども、彼女の声だと、どうしても役回りが限定されてしまうのは否めないし、大ホールで歌うのはちょっとしんどいのではないだろうか。

 前後をはさんだト短調交響曲は、25番が弦楽器10型編成(10-8-8-6-4)で、40番が14型(14-12-10-8-6)。25番はともかく、40番はモーツァルトとしては大規模な編成である。私個人としては、モーツァルトは透明感が会って各楽器がきれいに分離した演奏が好きなのだけど、井上のアプローチはト短調交響曲の悲劇性を強調した演奏となった。25番ではオヤット思うほどスピーディな出だしだったし、40番では反対にゆっくりとした演奏で、それぞれの曲の持ち味を井上なりに強調。会場の反応は好意的だったし、これはこれで一つの表現だろうと思うけど、私の好みではない。やっぱりモーツァルトは難しい。