新日本フィル トリフォニー定期A
シューマン「ゲーテのファウストからの情景」

(文中の敬称は省略しています)

●98/09/09 合唱付の大曲を得意とするジョン・ネルソンが登場する新日本フィルA定期は、とても珍しい作品でシューマンの「ゲーテのファウストからの情景」である。客席3階を見る限りではちょっと空席が目立つ感じ。昨年度とは反対に今シーズンはBシリーズに人気が集中したとのことだけど、まぁ、選曲やソリストの顔ぶれを見るとうなずける。この値段じゃ1回券で聴きに行きたいとも思わないし、空席も仕方が無いところか。

 海外招聘組も含めて10人のソリスト、四部合唱(晋友会合唱団)、児童合唱(TOKYO FM少年合唱団)が登場する大規模な作品だけに上演頻度が少ないのも仕方が無いけれど、音楽的内容から考えても面白みの乏しい作品という感想を持ってしまった。ロマン派的な聴きやすい音楽なのだけど、ベルリオーズなどと比較するとオーケストレーションが平凡で、起伏が乏しいので「情景」描写が音楽から伝わってこない。さらにシューマン自身が「ファウスト」の中から好きなシーンのテキストをピックアップしただけなのでストーリー性はゼロ。正味2時間強の作品だけど、これを全部集中して聞きとおすのは難しい。

 はじめて聴く作品だけに演奏の善し悪しは言いにくいけど、気になったのは児童合唱。声はざらつきを感じさせるし、声が通らない。そういえばMETの「カヴァレリア」の時に顰蹙を買ったのもTOKYO FMの児童合唱じゃなかったけ? METのときよりはマシだけど、このレベルでプロの演奏会に登場させるのは難しいんじゃないだろうか。ソリストではレベッカ・エヴァンスが光った。前半はもたついた感があったけど、艶やかで引き締まった声の美しさは秀逸。その他のソリストも、ほとんど不満は感じない出来映えで、晋友会の合唱も堅実な内容だったと思う。ただしオーケストラに関しては、先日の小泉和裕の時と比較すると、出だしが揃わないことが多く、弛緩した印象。

 意欲的な選曲と取り組みは認めるけど、この曲にそれだけの魅力は感じることはできなかったのは残念。字幕もないので対訳を頼りにするしかないんだけど、会場が暗い上に字が小さくて読めない。上演中は会場全体が弛緩した雰囲気が漂った。「ファウスト」に関しては名曲が多いので、そのチクルスでも取り組めば新しい側面が見えてくるのかもしれないけど、脈略も無くポッと定期演奏会の中で取り入れてもなかなか理解されない作品じゃないだろうか?