読売日本交響楽団 芸術劇場名曲シリーズ
井上道義=読響

(文中の敬称は省略しています)

●98/09/05 前の日の都響定期は個人的には好きな指揮者である高関健が登場するだけに聴きに行きたかったんだけど、研修の疲れからキャンセルしてしまった。聴きに行っても精神的に集中できないんじゃ、行っても時間の無駄になる可能性が大きいし、ちとコンサートも立てこんでいたので、仕方ないか・・・。 で、土曜日は読響の名曲定期で、井上道義の登場である。プログラムはかなり「散漫」でポリシーのかけらも感じさせないけど、井上は好きな指揮者だけに一回券を買って聴きにいった。

 この日の白眉は何と言ってもフランス・クリダの弾いたリストのピアノ協奏曲。このピアニストを見るのも聴くのも始めてだけど、容姿もピアノもとてもパワフル。打鍵の強靭さは、並みの男性ピアニストのそれを上回る。音色的には豊かとは言えないけど、一つひとつの音符の粒立ちはきれいだし、技巧的にも破綻がない。リストの曲自体は面白いとは思わないし、「名曲」に分類することは出来ないけど、フランス・クリダの手にかかると一夜のメインの聴き物になってしまうから不思議だ。

 ワーグナーの序曲は、うねるような弦楽器の一体感は見事だったけど、管楽器の音色には不満を感じる。全体に見通しが悪くなってしまったのは金管楽器に原因があったんじゃないだろうか。シベリウスも同じような傾向で、色彩感も平板で磨きこまれた室内楽的な美しさも感じられない。最後のコーダは迫力満点だったけど、全体としてはあまり感心できない内容だった。井上の美点であるリズム感の良さが生かしにくい選曲なので、仕方がないのかもしれない。でもアンコールの「ピチカート・ポルカ」はさすが井上道義!と思わせる絶妙のリズム感。やっぱり、井上のコンサートはこうでなくっちゃ!