読売日本交響楽団・芸術劇場名曲シリーズ
ラザレフのロシア・プログラム

(文中の敬称は省略しています)

●98/07/22 このところ評判が上がっている読響の演奏会で、ロシアの指揮者アレクサンドル・ラザレフの登場である。かつてボリショイ劇場の指揮者をつとめていた93年4月にボリショイ交響楽団を振ったのを聴いた限りでは感心しない指揮者だった。最近はどうも名前を見かけないけど、日本ではN響を振ったことがあるが、読響を振るのは今回が初めてということである。

 ラザレフを聴くのは久しぶりだけど、おおらかな音楽の流れは、ロシアの大地を思わせるスケールを感じさせるし、相変わらずオケを厚く鳴らす指揮者だ。アンサンブルも決して乱れているわけではないので、オーケストラをコントロールする力量も感じさせる。ただし色彩感や透明感を求める向きにはあまりオススメの指揮者ではないことは確かだ。私自身もやっぱり好きな系統の指揮者ではない。ただしボリショイ交響楽団と来日したときより、はるかに良い演奏を聴かせてくれたのは間違いない。これは指揮者の問題というよりは、当時のボリショイ交響楽団よりも現在の読響の方が実力的に勝っているからだろうと思う。アンサンブルの精度や「ff」の時でも音色がつぶれない点でも読響のほうが上だろうと思う。

 チャイコフスキーのコンチェルトは、ソリストの迫昭義の独奏には不満。音量はそれなりにあるんだけど、色彩感が乏しく平板的。オケと噛み合わないところも散見されたけど、雰囲気はソリストのほうの問題だと感じた。テクニック的にも秀でたピアニストではないので、ピアノに関しては残念な結果だった。オケは、第2楽章の出だしは磨きこまれたピアニッシモを聴かせてくれたところを見ると、「大きいことは良いことだぁ〜」だけの指揮者でないことをうかがわせる。

 ピアノ協奏曲第2番と「一卵性双生児」と言われるラフマニノフの交響曲第2番も、とてもロシア的な土の香りを感じさせる演奏で、恋愛小説的でロマンチックな側面はどちらかといえば希薄だ。甘口の音楽を期待していた向きには不満だったかもしれないけど、これはこれで立派な解釈だろうと思う。ただし分裂的な楽想をまとめきれたかというと、ちょっと不満も感じるけど、オーケストラも充実した内容を聴かせてくれて、夏の名曲演奏会としては満足すべき内容だったとも思う。アンコールはチャイコフスキーの「白鳥の湖」から「四羽の白鳥の踊り」。