読響定期演奏会
インバルのブルックナー第8交響曲(原典版)

(文中の敬称は省略しています)

●98/07/08 今シーズンの読響定期は注目の指揮者が登場する回数が多いけど、その中でも今回のインバルは最も注目すべき演奏会だろう。指揮者の注目度はもちろんのこと、選曲がブルックナーの交響曲第8番、それもテルデックへのレコーディングで一躍注目を集めた原典版の演奏というのだからブルックナー・マニア「必聴」の演奏会である。この機会を逃したら、ナマで聴く機会がいつ訪れるのかわからない。

 昨日(7月7日)は特別演奏会で同曲の演奏が行われたけど、インバルがタクトをとる場合はほぼ例外なく2日目の方が良いと言われている。あれだけ緻密な演奏を要求するのだから、演奏回数を重ねないと指揮者の要求を実現するのは難しいのだろう。

 さて、ブルックナーの第8交響曲の原典版、その曲の「骨格」は紛れもなくブルックナーの交響曲第8番である。耳に馴染んでいるハース版やノヴァーク版に登場するモチーフやテーマは、(たぶん)全て原典版の中から聴き取ることが出来るじゃないだろうか。しかし「骨格」が同じでも、「筋肉」のつき方全く違う。ハースやノヴァークと比較すると、オーケストレーションは薄目だし、既に聴き馴染んでいる主題がチラホラと顔をのぞかせるんだけど、その扱いが不明確で、ヴェールの向こうに霞んで見えるようなもどかしさを感じてしまう。ブルックナーが原典版のまま改訂しなかったとしたら、たぶん、現在のようにメジャーな曲としては扱われなかったのではないかと思う。

 インバルと読響は、破綻なく、極めて明晰な演奏を聴かせてくれた。インバルは録音になると、あっさりとした演奏になってしまう傾向がある。インバルは原典版をテルデックに録音しているのでそのCDと比較すると、オケの機能性は別とすれば今日の読響のナマ演奏の方が上じゃないだろうか。曲の構造や、ブルックナーらしい響きの原石の輝きは、たぶんナマ演奏じゃないと聞き取れないんじゃないかと思う。この曲の演奏としては、ハイレベルな演奏を聴かせてくれた。