尾高忠明=紀尾井シンフォニエッタ東京

(文中の敬称は省略しています)

●98/07/04 KSTの第15回定期演奏会で、今回は人気のモーツァルト・プログラム。かなり凝ったプログラムが多いKSTにしては正当派的な選曲で、今回の演奏会は久しぶりにほぼ満員となった。

 このところ演奏内容に不満を感じていたKSTだったけど、今日の演奏会を結論から言うと久々の充実した内容で、気持ちのいいモーツァルトを聴くことが出来た。特にピアノ協奏曲27番を演奏したソリストで、初来日のアンドレアス・ヘフリガーは素晴らしい。光沢のある音色は決して金属的ではなく、有機的な美しさを湛えている。それ以上の美点に挙げるべきは、彼のモーツァルトには歌心があることだ。ピアノはメロディラインの表現が苦手な(出来ない?)楽器と言われるけど、名手の手にかかるとピアノは歌う楽器に変貌する。チェルカスキーがその好例だと思うけど、ヘフリガーのモーツァルトのメロディラインの美しいこと・・・モーツァルトのコンチェルトが私の耳に、こんなに綺麗に響いたのは久しぶりのような気がする。

 前後を飾ったのはモーツァルトの2曲しかないト短調交響曲。どちらも「名演」という言葉に恥じない演奏だったけど、どちらかというと40番の方が良かった。きりりと弾きしまった弦楽器の美しさ、テンションの高さはKST一番の聴きどころ。それに比べると木管は聴き劣りするのが残念だけど、全体の演奏内容としては高水準のモーツァルトだと思う。大ホールで聴くとモーツァルトの演奏は心に残らないことが多いけど、このような中ホールで聴くと作曲者のエッセンスがより凝縮されたかたちで聞き取れるような気がする。作曲された当時の古楽器を使う流行もあるけれど、私は基本的にモダン楽器の音の方が耳に馴染んでいるし、作曲者が想定したホールの大きさの方が、音楽表現をする上では重要なファクターなのではないかと思う。KSTの演奏するモーツァルトは、今後も注目すべき演奏会になるんじゃないだろうか。