ベルリン・コミーシェ・オーパー
J・シュトラウスU世「こうもり」

(文中の敬称は省略しています)

●98/07/03 先日の「ホフマン物語」で、冴えた演出を堪能させてくれたクップファーによる「こうもり」の初日公演。人気のコヴァルスキーが出ない日とあって、高い席には空席が目立つ。

 「こうもり」といえば最もウィーンの香りが強い演目の一つだけど、クップファーの手に掛かるとウィーンの香りではなく「ベルリンの香り」になってしまうから不思議だ。舞台装置はエレベータ付き3階建ての鉄骨造。舞台全体が回転するようになっているので金はかかっているけど、豪華さや華やかさはほとんど感じない。見慣れたオットー・シェンクの演出のようなウィーン菓子のような甘い香りや、シャンパンの気泡がはじけるような雰囲気も消し飛んでしまって、クップファーの「こうもり」を喩えるなら辛口の麦酒、ドイツのビアホールのような雰囲気なのである。

 3階建ての鉄骨骨組みの舞台装置によって重層的に繰り広げられるオペラは、クップファーならではの味付けだろうと思う。本場ベルリンでは地のスラングを使ったセリフがウケているらしいけど、日本での反応はというと・・・個人的感想は「イマイチ」といったところ。ハンブルグの「タンホイザー」、ベルリン国立歌劇場の「ワルキューレ」、そして先日の「ホフマン物語」を見てきてクップファーは優れた演出家だと思っているけど、「こうもり」に新たな視点を加えようとしてもなかなか難しい演目なのかもしれない。満足度では「ホフマン物語」の方が遙かに上だった。

 歌手にはスーパースターは不在なだけに、どの歌手も美点と欠点を同じように持っている。純音楽的には欠点があっても、容姿がそれらしかったり演技力でカバーされているので、オペレッタを見る上での不満にはならないだろうと思う。面白かったのがカウンターテノールでオフロフスキーを歌ったアクセル・ケーラー。容姿は髭面でセリフは男っぽい声なのに、歌うとほとんどアルト。もちろん裏声なんだろうけど、最初の歌声を聴いたときにはビクッとした驚きが会場を走った。これはコヴァルスキーを初めて聴いたときの驚きにも匹敵するけど、雰囲気はかなり違うので好みは分かれるだろう。

 この日の指揮者は音楽監督のクライツベンツ。かなりパウゼを多用して、音楽の緩急をつけるタイプだが、音楽の流れは自然。決して機能的に優れているわけではないし、音量も控えめなオーケストラだけど、極めて手堅い管弦楽でアンサンブルは秀逸である。名古屋ではオーケストラコンサートも行ったようだが、東京では開催されなかったのが惜しまれるくらいだ。

 個人的な趣味では「ホフマン物語」のほうが良かったけど、まぁ、この日は5,000円のチケットだったのでそれなりに満足すべきなのかもしれない。今度、来日するときには、是非ともチケットの値段は見直して欲しいものだ。