読売日本交響楽団 芸術劇場名曲シリーズ
インバルの幻想交響曲

(文中の敬称は省略しています)

●98/06/25 インバルが読響の演奏会の登場するのは、実に25年ぶり。このところ充実していると言われている読響との共演だけに、注目の演奏会だろうと思う。特に芸術劇場シリーズは、G席として2,000円の座席を設定しているのが良心的だ。

 まずモーツァルトの協奏曲は、印象に残らない演奏。ダグラスのピアノは歌心に欠けている感じで、旋律がぶつぶつと途切れる印象を与えてしまう。これではモーツァルトは浮かばれないだろう。サポートはピアニッシモを生かした繊細なものだっただけに、ソリストの人選が惜しまれる。

 後半はメインの「幻想交響曲」。インバルを都響で聴いた印象だと、彼はレコーディングより実演の方が遙かにキワモノ的なアプローチをする指揮者である。オケが崩壊しようと何しようと、彼のタクトが緩むことはない。自分自身のアプローチを徹頭徹尾貫徹する指揮者で、その意味ではチェリビダッケの後継者みたいなイメージがある。この日の「幻想」も、緻密なインバルの意志が貫かれた内容で、特にピアニッシモ方向に拡大されたデュナーミクの幅の大きさが印象に残る。表題性よりも純音楽的なアプローチを目指した演奏で、キワモノ的グロテスクな表現は影を潜めて、贅肉を削ぎ落とした見通しの良いベルリオーズ像が出現した。

 オーケストラもとても良い反応を見せて好演。特に印象に残ったのは、都響よりも余裕を持ってインバルを受け止めているような雰囲気があることだ。弦楽器に関しては現在でも都響の方が上だと思うけど、 管楽器が加わったトータルで考えると、進境著しい読響は都響と甲乙つけがたいポジションを獲得しているんじゃないだろうか。インバルと読響も、組み合わせとしては注目すべきだろうと思う。