新国立劇場「ナブッコ」
(文中の敬称は省略しています)

●98/06/18(正式版) 新国立劇場の6月の公演はヴェルディの出世作「ナブッコ」、その初日の公演である。

 休憩を入れて上演時間はおおむね3時間、しかし一番面白かったのは終演後の「カーテンコール」だった。なぜなら2月の「椿姫」に続くブーイングの嵐が、カーテンコールを襲ったからである。「椿姫」の時のブーイングは演出家だけだったけど、今回の「ナブッコ」は違う。指揮者グァダーニョ=新星日本交響楽団、ベルの祭司長を歌った三浦克次には盛大なブーイング(ブラボーなし)の嵐が叩きつけられた。実際にオケは酷かったので、このブーイングには思わず納得。5月の「魔笛」ではマトモだった新星日響だったけど、「ナブッコ」では音色感がなくベッタリとした平面的な管弦楽で、グァダーニョのタクトにも緊迫感がない。大きなミスはなかったものの、これでは不満があつまるのも当然だろう。

 あと演出家ディアツも、緊迫感のない上演に手を貸してしまった。藤原歌劇団に良く登場する演出家だけど、リアリティに乏しい歌手や合唱の動きは「もーちょっと、なんとかならない?」と思ってしまう。舞台装置は比較的簡素だけど、照明を駆使してそれなりに綺麗に見せていた。しかし新国立劇場の舞台機構を駆使したものを期待するとガッカリするだろう。タイトルロールのカヴァネッリにも、大きなブラボーの中を4階からブーイングの声があったけど、私はカヴァネッリに関しては健闘したんじゃないかと思う。カヴァネッリ自身は自分の歌には自信があったらしく、ブーイングに対して挑発的なポーズ!「おらおら、もっとブーイングして見ろ。聞こえないぞ」「耳が悪いんじゃない?」といったジェスチャーを見せた。ただし前半は声をセーブしすぎたの事実。ザッカーリアを歌ったブルチュラーゼにもブーイングが飛んだけど、全体的な反応はブラボー優位。彼は声量と存在感はあるけど、音程が怪しく、テンポが遅くなると急に不安定になる欠点があって、前半を聴く限りならブーイングも理解できるが、後半はそれなりに聴かせたと思う。市原多朗は、出番は少ないながらも安定した歌 唱で、満場のブラボーを集めていたのが印象的。女声陣では、注目のフラニガンは、力演は伝わって来るんだけど、声域によって声の出方が大きく違ってつながりが悪く、表現力には不満を感じる。少なくとも私の好みの歌手ではない。

 あとこの曲で忘れてはいけないのが合唱だろうと思う。今回は新国立劇場と藤原歌劇団の混成で、たぶん100人程度の大編成の合唱団がステージに入れ替わり立ち替わり登場した。最初は人数が多い割に声が飛んでこないと言う感じだったけど、幕が進むに連れてかなり良くなった。練習も良く行き届いていて、ほとんど不満のない内容だった。ただし演出の問題だろうと思うけど、群衆としての動きは、リアリティに欠ける。

 私の中では、「ナブッコ」は「好きではないオペラ」「オモシロくないオペラ」に分類されていて、東フィルのオペラ・コンチェルタンテで聴いただけである。旧約聖書のテーマもあまり身近ではないし、登場人物の描き方も中期以降のオペラに比べれば感情移入しにくいし、ストーリーも説得力がない。音楽的にも、ストーリーに見合うだけの緊迫感が感じられないし、「行け、想いよ、黄金の翼に乗って」も、「そんなに良い曲かなぁ・・・」と思ってしまう。舞台上演を見るのは今回が初めてだったから、私の評価はその辺を割り引いて読んで欲しいけど、正直言って3時間は退屈だった。「ナブッコ」はヴェルディの「出世作」ではあっても、これは「傑作」ではないと思うのは私だけだろうか?