新国立劇場に定期会員制度を!
(文中の敬称は省略しています)

●98/06/14 私は新国立劇場の会員組織「クラブ・ジ・アトレ」の会員で、その優先発売の恩恵に預かって5月31日の「アラベッラ」、6月7日の「セビリアの理髪師」の優先発売日に電話をかけまくった。しかしこれが通じない。この2日とも電話が通じたのは発売後2時間ほどが経過した12時ちょっと前。これでもISDNで使える2本の電話をフル稼働した結果である。電話が通じたときにはすでに「アラベッラ」も「セビリアの理髪師」も、第一キャストの日は売り切れ、もしくはS席しか残っていない状態だった。手分けして「ぴあ」に並んだ友人がチケットを確保してくれていたから良かったけど、「アトレ」の会員でもこの有様である。さらに非会員の人からも、新国のチケットの入手が難しい、という話を良く聞く。あまり有名でないキャストの日や、平日の公演、S席などの高い席種だったらなんとか手には入るものの、そうでなければ発売当日の数十分が勝負だ。限定10,000名で募集した「クラブ・ジ・アトレ」も現状で追加しても、会員制度として機能しなくなるのは明らかだ。

 この原因は、新国立劇場の公演数の少なさだろうと思う。もちろん現在の公演数は開館前に見積もられたものだろうから誤差があるのは当然だし、新国立劇場の座席数の少なさ(東京文化会館2400席=新国立劇場1600席)も大きな要因だ。さらに開館直後の物珍しさからバブル的な要素も含んでいるのだろうけど、気合いを入れてチケットを確保しなきゃいけない現状では「気軽にオペラを見に行く」という状況からかけ離れているのは事実だろうと思う。新たなオペラ・ファンを開拓したいのであれば、現在よりも公演数をふやすことが必要だろう。そのために優先して考えなくてはいけないことは、第一に安定的な聴衆の確保であり、第二に新しい聴衆の獲得だろうと思う。

 その安定的な聴衆の獲得のために、もっとも有効な手段は、「定期会員制度」の導入ではないだろうか。新国立劇場はオープン直後に(たしかアトレ会員対象だったと思う)にオペラ10公演のS席セットを18万円強の値段で募集したことがあるけど、もちろんそーゆー「金持ち対象の定期会員」ではない。もちろん定期会員制度はオーケストラではお馴染みの制度で、定期演奏会の基本的な位置付けは定期会員のための演奏会である。定期会員にとっては安定的な聴衆となる代わりに、チケットの割引、座席に確保などの特典がある。あらかじめ定期会員で年間予約した人は、一版発売には参加しない可能性が高いから、非会員の一般予約も電話が繋がりやすくなる。(もちろん前提条件として、定期会員分程度の座席数の増加=公演数の増加が必要だ。)オーケストラとしても、定期会員で会場をいっぱいに出来ればチラシや広告などの営業経費は削減できるし、チケットをプレイガイドに委託して販売する場合の手数料(券面金額の10数%)を節約できる。さらに大きな利点は、演目においても演出においても、意欲的な取り組みが可能になる点が挙げられるだろう。全てのチケットを全部 一般発売しなければならない現状であれば、冒険的な取り組みは営業サイドから見ても難しい問題があると思うけど、定期会員である程度の聴衆が確保できているのであれば、現代物の新作初演だって前衛的な演出を取り組む上でも大きな障害はクリアーできるのではないか。これが成功している例としては、都響が毎年1月の定期演奏会で行っている「日本の作曲家シリーズ」が挙げられる。これも「定期会員」制度とは切っても切れない密接な関係にあると思う。

 ただしオペラの定期会員だと大きな問題がある。第1にキャストの問題だ。一年先の公演のキャストまで発表するのは困難なので、会員予約の段階ではキャスト不明のままで申し込まなきゃいけなくなる。さらに、一般的なオペラの公演の場合は、初日、3日目、5日目・・・という奇数日に人気歌手キャストが、2日目、4日目という偶数日には非有名?キャストが組まれる傾向にある(もちろん例外はある)。もし「初日会員」「2日目会員」というように募集したら、「初日会員」に人気が集中するのは火を見るよりも明らかだ。また人気のある演目だと公演日程が5〜7日間組まれるけど、日本人作曲家のオペラだと2日間しか公演日がなかったりする。こうなってくると、定期会員は上演回数の一番少ない演目に合わせて募集せざるを得ない。(あと新国立劇場の将来構想にも関わってくるが、それについては後日改めて)

 「定期会員制度」といっても、かなり大きな難問があるのは事実だ。しかし「初日」と「2日目」「3日目」を交互に組み合わせるような会員制度とか、定期会員とまで言わなくても大阪フィルのように翌年度に座席指定を繰り越せない一年間限定の「連続券」なども次善の策としては有効だと思う。問題はあるけど、解決の方法はいくらでもある。オペラ・ファンとしては現状の発売日の苦労はなんとか解消してもらいたい。そして劇場サイドとしても、固定客をしっかりとつかむことが、新国立劇場の土台をしっかりと固めることになるんじゃないだろうか。