サイモン・ラトル=バーミンガム市交響楽団
(文中の敬称は省略しています)

●98/06/02 マーラーの第7交響曲「夜の歌」の最後の一音が鳴り響き、それと同時に熱烈な拍手とブラボーの声がホールを包み込む。カーテンコールはオケが引き上げても帰ろうとする聴衆は少ない。拍手鳴りやまぬ東京オペラシティ・コンサートホールの中を、ラトルは3回もステージに呼び戻された。演奏もそれに違わぬ熱烈な演奏だったのは事実だろうと思う。しかし・・・・私はどうにも割り切れない気持ちを抑えられない。なんか熱烈な拍手を贈る聴衆の中から取り残されたような気持ちだ。

 「夜の歌」は、マーラーの交響曲の中でも最も人気のない曲らしい。・・・しかし天の邪鬼な私は、怪奇趣味的なこの曲は大好きで、インバルのCDがお気に入り。さらにラトル=CBSOのコンビとなれば、最高のアンサンブルが聴けるものと期待して出かけたが、残念なことに私は疲労気味で集中力低下ぎみ。さらに隣に座った人の鼻息が気になってさらに集中力減少。おまけに奮発して買ったA席(9,000円)なのに、意外と音が良くないのにガッカリしてしまった。

 座ったのは3階席正面で、視覚的には前の人の頭も邪魔にならないし、ステージの奥まで見通しが良い。距離感も、いつも座っているサントリーホールCブロック8列目付近の距離だろうか・・・決して遠くない距離である。1600席のこじんまりとしたホールなので音が悪かろうはずがないと思ったんだけど、意外や意外、音が来ない。音にハイカット・フィルターがかかった感じで、聞こえるはずの音がそこまで来ているのに、手が届かないもどかしさ! 思い出すと、サントリーホールが出来上がった当初の音によく似ている。このホールにオーケストラの音が馴染むまでには、まだまだ時間がかかるような気がするけど、人から聞いた話だと2階や3階のバルコニーでステージに近い方の席の方が音がよいらしい。ただ視覚的に大きな問題があるので、オススメは出来ない。

 まぁ、そんなワケで、大好きな「夜の歌」も充分に堪能できたとは言い難い。しかしラトルのタクトのもと、一糸乱れぬ演奏を見せたバーミンガム市交響楽団の演奏の素晴らしさは、特筆して良いと思う。さすがに厳しいスケジュールの来日日程ラストの演奏会だけに、金管楽器のミスなどがあったけど、そんなものは問題にもならないだろう。ある意味では「あざとい」解釈を見せるラトルのタクトを、いとも自然に音に変えていく様は圧巻である。こ、これで音が良くて、私の体調が良ければ、言うことないんだけどなぁ・・・。

 前半にはナッセンの交響曲第3番が演奏されたけど、これはよく解らない曲だった(^_^;)。


●1998/06/03 前日のラトル=CBSOはほぼ満席の盛況だったのに、この日は約6割程度の入り。特に1階席の横と後ろはガラガラ、その反面、3階席はほぼ満席という変な状況だった。

 前半の2曲は、私には理解不能な曲だったので、コメントはパスして、話はいきなりベートーヴェンに移す。音は昨日とほぼ同様の席だったけど、私自身の集中力はかなり回復していたので、トータルでは昨日よりはマトモに聴けただろうと思う。先日のサントリーホールでの「エロイカ」も素晴らしい演奏だったけど、この日の5番も期待に違わぬないようだった。ラトルは第1楽章冒頭から凄いスピードで演奏を繰り広げていく。決して暴走的なスピードではなく、計算され尽くしたスピードだ。第3楽章までは重量感はほどほどにして、第4楽章に入った途端にアクセルを全開にして強烈な推進力を加えていく。ラトルが加えていく音楽上の表情も、一歩間違えば悪趣味になるかもしれないけど、そうならないあたりがラトルの美点だろう。どのようなことをやるにしても計算され尽くしている感じがする。前回の「エロイカ」同様、俊敏で若々しく、推進力溢れる「5番」だった。

 アンコールには武満徹への追悼の意味も込めて、ベートーヴェン/コリン・マシューズ編曲の弦楽四重奏曲第16番第2楽章レント・アッサイを演奏。室内学的な美しさとは、まさにこれのこと。感涙ものの美しい演奏だった。