コリン・デイヴィス=ロンドン交響楽団
(文中の敬称は省略しています)

●1998/05/19 コリン・デイヴィスというと、バイエルン放送響時代に88年、91年、シュターツカペレ・ドレスデンと来日した92年に聴いたことがある。どちらもドイツのトップクラスのオーケストラだけに聴きごたえ充分だったけど、何よりも感心したのはコリン・デイヴィスの奇をてらわない正攻法のタクトと情熱的な表情である。特にヴェルディの「運命の力」序曲は、彼のタクト以上に素晴らしい演奏を聴いた記憶がない。「運命の力」の動機のインパクトの強烈さ、緩急を最大限に生かした表情の豊かさは、決してオペラ的ではないけれど、オペラ以上に劇的な音楽だった。メジャーレーベルとの録音もそれほど多いわけではないし、日本へ来る回数も決して多いとは言えないので人気という点では今一つかもしれないけど、個人的には関心度の高い指揮者のひとりである。そして彼は現在、イギリスで最高のオケと評価されるロンドン交響楽団に首席指揮者のポストを得て、久しぶりの来日となった。

 「スコットランド」はPブロックで聴いたんだけど、これが非常に気品を感じさせる演奏で、表情が豊かで音も非常に美しい。デイヴィスの特徴は、堅苦しくなく柔らかな演奏が特徴で、それがロンドン交響楽団の機能性と相まって絶妙の「スコットランド」を聴かせてくれた。特に第3楽章アダージョの美しさは絶品。
 後半は空席があった正面の方に移って(^_^;)聴いたんだけど、エルガーの演奏は・・・ううむ、これはよくワカラン演奏だった。エルガーの1番というとショルティのCDを持っていて、意外と好きな曲だったんだけど、それとは明らかに違うアプローチの演奏で、デイヴィスの演奏は情熱は表に出過ぎてオケのパートが分離しないし、旋律線が大音響の中に埋もれてしまうこともしばしば。これは私の座った席に問題があったのかもしれないが、このエルガーの演奏は楽しめなかった。


●1998/05/24 この日は日曜日と言うこともあって、サントリーホールはほぼ満員の盛況を見せた。プログラムはシベリウス・プログラムで定番とも言える曲目である。

 最初の「エン・サガ」は印象に残らなかったので、まずはヴァイオリン協奏曲のことから。ソリストの竹澤恭子は、以前から注目していた才能あるヴァイオリニストだけど、この日の演奏を聴く限りはガッカリ。ジュリアード音楽院ドロシー・ディレイ仕込みの美しく聴き映えのする音色はまぁまぁとしても、音色の移ろいであるとか陰影感に乏しく、シベリウスの北欧的な表情が見えてこない。オマケに速いパッセージになると弾きこなせていないのが明らかで、本当に練習をこなしているのか疑わしくなる。オケのTuttiでも独奏Vnの音が突き抜ける音量があるから、大ホールでの演奏はそれなりに誤魔化せるけど、まだまだ若いのにこんな演奏をしていちゃいけないと思う。

 後半の交響曲第2番は、安心して聴ける内容。デイヴィスのタクトだと、曲そのものの体温が上昇してしまって一般的なシベリウスらしさは後退してしまう。個人的にはクリアーで透明感ある北欧的な演奏が好きなんだけど、デイヴィスが見せてくれた情熱溢れる演奏はこの曲の別の側面だろう。これはこれで立派な価値観だ。デイヴィスのタクトは、Pブロックから見ていると決して器用だとは思えないし、素人目ではなんの変哲もない指揮者にしか思えないけど、オーケストラの自発性を大事にしながらコントロールすべきポイントはキチッと押さえているように思えた。

 今回の来日公演は、その全てが良い演奏だったとは言い切れないけど、コリン・デイヴィスらしい音楽が以前と変わらずに聴けたことは収穫だったし、ロンドン交響楽団という名楽器を得た今後の活動は要注目だろうと思う。