サントリーホール オペラ・フェスタ
(文中の敬称は省略しています)

●1998/04/23 サントリーホール恒例のホール・オペラ、今年の演目はヴェルディの「ナブッコ」だった。私は聴きに行かなかったけど、友人の話によると素晴らしい公演だったらしい。その「ナブッコ」に登場した歌手や指揮者を集めてオペラ・アリアのコンサートが今日の「サントリーホール オペラ・フェスタ」である。聴き終えた感想を結論的に書くと、今年最高の感動的なコンサートだった。

 なによりも素晴らしかったのは、アンコールで演奏されたプッチーニ「トスカ」のラストのシーンである。マリア・グレギーナがトスカ、アルミリアートがカヴァラドッシを歌ったんだけど、これまで見た舞台上演よりもドラマチックで感動的な幕切れは筆舌に尽くしがたい。グレギーナの最初の一声から聴くものを引き込んでいく求心力を感じさせる。役柄になりきった演技力、ドラマチックな声と豊かな声量は、演奏会形式でありながら舞台が間近み見えるような錯覚さえ覚えてしまう。アルミリアートの柔らかく艶やかな声も、聴き手を魅了するには充分である。「トスカ」は数多くの実演に接してきたし、録音もそれなりに多くを聴いてきたけど、この日の「トスカ」ほど舞台に引き込まれた演奏は初めてである。

 またレナート・ブルゾンは「椿姫」の「プロヴァンスの陸と海」でオケとズレまくった難点を見せたけど、声そのものは知性を感じさせて説得力抜群。「リゴレット」の「悪魔め、鬼め」はブルゾンの知性がリゴレットに不似合いな感じがしたけど、それがブルゾンの魅力なのだろうと思う。フルラネットは初めて聴いたバス歌手だけど、「マクベス」の「天から影が落ちて」と、「ドン・カルロ」の「一人寂しく眠ろう」でホールを包み込むような深い声を披露し、満場の拍手を集めた。ただしフルラネットは歌う前に必ず「考える人」のポーズをするのが気になった・・・(^_^;)。

 今日の管弦楽はダニエル・オーレン指揮の東京フィルハーモニー交響楽団。オーレンは1月の新国立劇場「アイーダ」を降板させられた指揮者だけど、ナヴァッロとは雲泥の力量を感じさせる指揮者だ。もし「アイーダ」にオーレンが登場していたら、私の「アイーダ」への評価は全く違ったものになったかもしれない。佐渡裕以上にジェスチャーが大きい指揮者で、「カルメン」第1幕の前奏曲なんかは、「踊る指揮者」状態だったけど、佐渡裕との違いは決して空回りをしない点である。とにかく集中力の強さ、求心力の強さを感じさせるタクトで、マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲なんかは決して付け足しの演奏ではなかった。唯一の不満は、ブルゾンの「プロヴァンス〜」でのズレだったけど、これは歌手が悪いのか指揮者に問題があるのかはわからなかった。

 これだけの歌・演奏を聴いてしまうと、先日の「ナブッコ」を聞き逃したのが残念でならない。せめてもの救いは26日のグレギーナのリサイタルが残っていることだけど、果たして彼女が歌曲でも力を発揮できる歌手なのかは未知数。ドラマチックな表現力では長けていても、歌曲の表現力とは必ずしも一致しないだろう。とりあえず26日も素晴らしいコンサートになることを期待したい。