若杉弘=都響の「天地創造」
(文中の敬称は省略しています)

●1998/04/17 都響は今シーズンからベルティーニを音楽監督に迎え、朝比奈人気も相まってAシリーズの定期会員券は売り切れになったらしい。残念ながら4月のAシリーズは職場の歓送迎会が重なって行くことが出来なかったので、この日のBシリーズが都響98-99シーズンの最初の定期演奏会と言うことになる。以前はサントリーホールの人気も手伝って、Bシリーズのチケットは売り切れになることが多かったけど、この日の定期は空席が目立つ。声楽曲と言うことでPブロックに客を入れなかったにもかかわらずチラホラと空席が目立って、Pブロックを除いても8〜9割程度の入りじゃなかったろうか。まぁ、選曲から見てもAシリーズの方に人気が傾くのも当然だと思う。

 この日の定期は前音楽監督の若杉弘のタクトで、ハイドンのオラトリオ「天地創造」である。旧約聖書にある神の「光あれ」に始まる7日間の天地創造(第1部&第2部)と、アダムとイヴの話(第3部)をドイツ語でオラトリオ化した作品だ。この日の演奏は休憩なしで1時間40分程度の演奏だったけど、ちょっと演奏時間が長く感じられる内容だった。

 この作品を聴くのは初めてだけど、バッハ「マタイ受難曲」と比較すると内容的な深さで格段の差がある。バッハ「マタイ受難曲」はキリストの受難を現代にも通じる人間的なドラマとして描いているけど、ハイドン「天地創造」はそのエピソードの紹介以上の内容は感じられない。信仰心があれば少しは感じ方が違うのかもしれないけど、同じ宗教曲というジャンルでも内容の掘り下げ方には格段の差がある。

 さらに演奏の方も、パッとしない。まぁ初めて聴く曲なので偉そうなことは言えないけど、この曲の面白さはたぶん、各シーンの情景描写の巧みさにあるのだろうと思う。最初は混沌としたカオスの世界の描写、神が「光あれ」との言葉で調和のある世界の訪れを描き出したり、「空と水」「天体」「生物」、そしてアダムとイヴの創造など、作曲家の腕の見せ所だろうと思う。ハイドン自身も「天地創造」をテーマに選んだのは、きっとテーマの豊かさに惹かれたのだろう。しかしこの日の演奏で聴く限り、その世界の広がりが伝わってこない。若杉=都響の演奏からは決定的な弱点は見つからないけど、デュナーミクの幅は狭いし、音色のパレットも決して豊かではなかった。

 さらに独唱陣も問題で、個人的に満足できたのは伸びやかな声の吉田浩之(T)と声量豊かな小鉄和弘(Br)だけ。久しぶりに聴く大倉由紀枝も声のムラを感じるし、アダムとイヴを歌った大島幾雄と平松英子はそろって声が出ていない。晋友会の合唱はなかなかドラマチックだったけど、独唱も含めて「声」の面でも満足すべき内容ではなかったのは残念。

 この日の演奏会には、都響としては珍しく字幕スーパーが設けられた。これは歓迎すべき事だけど、残念ながら電光掲示式のスーパーは字が小さくて、私のようなステージから遠い席からだとかなり見難い。スライド式に比べるとコストが抑えられるのはわかるけど、もう少し改善の余地があるんじゃないかと思う。