沼尻竜典=都響の「グリーグ」
(文中の敬称は省略しています)

●1998/04/05 都響「作曲家の肖像シリーズ」の新年度の皮切りは、ノルウェーの作曲家グリーグである。指揮者は新鋭・沼尻竜典。日曜日の公演だったけど、今一つ目玉に乏しい公演だったせいか、客席は3階席前方を中心に空席が目立つ。快晴でポカポカ陽気で、みんな花見に行ってしまったのだろうか?

 グリーグの曲は、ペール・ギュントやピアノ協奏曲、ホルベルグ組曲などしか知らないけど、とても聴きやすく親しみやすい曲が多い。管弦学的には技巧を凝らした曲ではなく、どの曲も単純明快だ。今日の演奏の「組曲」と「舞曲」は、いずれも初めて聴く曲だったけど、とても聴きやすい。一度聴いただけでも充分に楽しめるだろうと思う。ま、それだけに奥行きの深さは感じないし、音楽的な内容は今一つ乏しいけど、それがグリーグの魅力との裏表の関係にあるのだろうと思う。

 沼尻=都響の演奏は、とても端正なアプローチで、なかなか充実した音楽を聴かせてくれたように思う。最初は劇音楽「十字軍の騎士グリエール」からの組曲版。プログラムによると「ペールギュント」に続く作品らしいけど、舞曲や行進曲が織り込まれていて、沼尻の正確なリズム感が心地よく音楽を盛り上げていく。

 ピアノ協奏曲は、田部京子の独奏。私の周りでは結構評価する声が高いピアニストだけど、個人的にはあまり好きな系統ではなかった。都響の定期で2回、モーツァルトの協奏曲を聴いた記憶があるけど、あまり面白みのない演奏だったように思う。しかし今日はロマン派の名曲で、モーツァルトとは全く違うアプローチを聴かせてくれた。女性ピアニストとしてはかなり強靱な打鍵で、硬質で引き締まった音色が美しい。ちょっと歌い廻しに癖・・・というか作為的な雰囲気を感じたけど、これはこれで面白いアプローチの一つだろう。

  休憩後のメインは「4つの交響的舞曲」。グリーグの晩年に属する作品らしいけど、これも綺麗な聴きやすい曲。オケはやや鳴らし過ぎで、残響の長い芸術劇場の残響音に微妙なニュアンスが埋もれてしまうような感じだったけど、決して悪い演奏ではないと思う。ただし一夜のコンサートを構成するには、グリーグの音楽だけでは苦しいのは拭えないんじゃないだろうか。あまりに聞き易すぎて、耳が麻痺してしまう。もう少しワサビが利いた音楽を交えて演奏してほしいと思うのだが、・・・。アンコールは「ホルベルグ組曲」から前奏曲。