井上道義=都響の「スメタナ」
(文中の敬称は省略しています)

●1998/03/25 都響の作曲家の肖像シリーズ、97−98シーズンの最後を飾るのは井上道義が指揮をするスメタナの連作交響詩「わが祖国から」である。チェコの「プラハの春」音楽祭では、毎年、この曲でオープニングを飾るというほどチェコの民衆に愛されている曲である。6つの標題音楽からなるこの曲は、チェコの城や山、モルダウ川、ボヘミアの森や草原、そしてチェコの伝説などをモチーフとして作曲されていて、とても親しみやすい曲である。なぜか第2曲「モルダウ」だけが有名になってしまっているけど、その他の曲も「モルダウ」に劣らない名曲だと思う。

 この日は平日の公演だったけど、このシリーズとしては意外とと客席はうまって約8割程度の入り。指揮者の人気と曲目の親しみやすさだろうけど、演奏内容はやや不満の残る内容だった。井上のアプローチはデュナーミクの幅を広く生かして、表題性を強調したもの。オケを大胆に鳴らすシーンが多かったけど、ピアニッシモはほとんど聴くことが出来なかった。スメタナらしい綺麗なメロディラインや表題性を前面に押し出した表現では納得できるものも多かったけど、磨き込まれた美しい音色を堪能するには物足りない。これはオケの機能性に起因する割合も大きいんだろうけど、指揮者のアプローチによって犠牲になってしまった音色の美しさも決して少なくないように思える。

 井上道義は抜群のリスム感の良さで、音楽の流れという点では素晴らしいものを聴かせてくれるんだけど、時として「音色の美しさ」が犠牲になってしまう。彼の持ち味と表裏の関係にあるのかもしれないけど、聴き馴染んだ「名曲」だけに期待が大きすぎたのかもしれない。