外山=都響「尾高尚忠作品集」
(文中の敬称は省略しています)

●1998/01/30 都響の日本の作曲家シリーズ24回目は、N響の指揮者としても有名だった尾高尚忠の作品集である。1951年に40歳の若さで没しながらも、日本のオーケストラ黎明期を支えた指揮者であり、音楽家である。私は「現代音楽」の優れた作品に贈られる「尾高賞」の名前と、現読響常任の尾高忠明の父として知っている程度だ。

 この日の曲は1938年から1948年という戦争の時代に書かれた作品である。1938年と言えば日本が中国侵略にのめり込んでいく15年戦争の真っ直中であり、1948年と言えば戦後の混乱期である。全部初めて聴いた曲ばかりだけど、このような時代に書かれた作品としては驚くほど完成度が高く、聴き応えのある作品ばかりだ。日本の作曲家には不案内だけど、その歴史を語る上で欠くことの出来ない音楽家なんだろうと思う。

 もっとも現代のコンサートのレパートリーとしてそのまま組み込んだ場合、ちょっと聴きおとりがするのは否めないと思う。最初の曲「蘆屋乙女」はレスピーギのような響きを感じるし、「ピアノと管弦楽のための狂詩曲」はラフマニノフのような美しい主題がさまざまな変奏を重ねていく作品だ。第1楽章だけしか完成しなかった未完の「交響曲第1番」も、ドイツ・後期ロマン派の影響を色濃く感じさせる作品である。西洋で生まれたオーケストラを駆使して、このレヴェルにまで昇華していた才能は、率直に素晴らしいと思う。しかし「独創性」という点から見ると、すこし存在感が希薄な気がする。

 オケの演奏は、初めて聴く曲だけにコメントはパス。ただしチェロ独奏の堤剛の音が、かなり遠くに聞こえてしまったのが残念。この人はもっとしっかりとしたチェロを聞かせてくれる人だと思うんだけど、今日は全然鳴っていなかった。