村川千秋=山形交響楽団
(文中の敬称は省略しています)

●1998/01/25 すみだトリフォニーホールで行われている地方都市オーケストラフェスティバル、その第2回目の公演は村川千秋指揮の山形交響楽団である。プログラムによると1972年に東北初のプロ・オケとして発足し、常任指揮者・村川千秋のもとで活動を行っているとのこと。この日のメンバー表を見ると、管楽器はほとんど自前の奏者だけど、弦楽器の3〜4割くらいがエキストラだ。中には都響の首席奏者が含まれている。たぶん財政的な理由で、弦楽器は中心メンバーだけを雇用して、演奏会の都度、エキストラを補充しているのだろう。

 ますノルトグレンはフィンランドの作曲家で、日本の芸大にも4年間留学していた経歴を持つらしい。ピアノ曲「耳なし芳一」などという曲もある(どーゆー曲なんだ?)らしいけど、今回は山形の民謡をモチーフに作曲した作品だ。現代曲としては聴きやすい部類に入るんだろうけど、テンポや色彩感の変化に乏しく、聴いていてあまり楽しい作品とは言い難い。

 千住真理子をソリストに起用したシベリウスのヴァイオリン協奏曲は、最近では希にみるヒドイ演奏だった。オケや指揮者をどうこう言う以前に、ソリストが酷すぎる。出だしだけは音量もあって期待させるものがあったけど、それ以外はぜんぜんダメ。音量と高音部の音色はそこそこだけど、低音域の荒れが著しいし、速いパッセージになるとテクニックの破綻が明らかなのだ。第3楽章などは、演奏がストップするんじゃないかとハラハラドキドキの連続で、プロのソリストとしては明らかに失格の演奏だ。この日たまたま調子が悪かったのなら許せるけど、このような演奏を無自覚に続けているのであれば、クラシック演奏家としての姿勢そのものが問われることになるだろう。

 休憩後はシベリウスの交響曲第4番。滅多に演奏されない曲だし、変化に乏しく、一回聴いただけではなかなか理解しにくい曲でもある。私自身もナマで聴くのは初めてだし、この曲にきちんと向き合ったのは今回が初めてかもしれない。山形交響楽団は、機能的には優秀なオケとは言い難いけど、渋くくすんだ弦楽器はシベリウスに相応しい。たぶんこの演奏を聴いて、エキストラがこんなに多いオケとは誰も思わないだろう。音色的な統一感がとれているし、微妙に変化する色彩感が音楽の彫りを深くしている。

 ベルリオーズやラヴェルのような派手な曲だと、このオケが演奏するのは難しいかもしれない。しかし北欧の作曲家のような雰囲気には、このオケはよく似合う。アンコールで演奏されたシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」は弦楽合奏の美しい曲。これは感動的な熱演だった。